こんな『違い』があったんだ!

「姓」「苗字」「名字」の違いとは? 正しい使い分けは?

名前


人生最大のモテ期、私、今年だったんだって……早く教えてよ! もう12月なんだけど……

占い?

へぇ、姓名判断してもらったんだ。

大丈夫だよ! 結婚すれば名前変わるから大丈夫!

あ……! そのためのモテ期か……うーん……(何気なく立ち去る友人A)

名前

その「姓名判断」、当たらないことを祈っています……

さて「姓」「苗字」「名字」です。

一家に1台パソコンがあるのが当たり前の今よりも、はるか昔から一家に1つあった名前。


なのに、その呼び名が3つ?!
私のフルネームの「○○ △△子」。「○○」って「姓」なの?「苗字」? それとも「名字」なの?
もう、私って、誰なの~~

大丈夫、今度は本当に大丈夫です!

「姓」「苗字」「名字」の違い、その使い分けや、どの言い方・書き方が正しいのかなどなど、しっかり解説いたします。

モテ期も、きっとまた到来します。

ご家族・親族がみんな同じ「姓(か苗字か名字)」であることが何となく嬉しくなり「明日久しぶりにじいちゃんに電話してみようかなぁ」などの気分になっていただけましたら幸いです!
目次

「姓・苗字・名字」は何が違う?

「せい」「みょうじ」「みょうじ」。「姓」以外は、読みまで同じ。


もう、同じ読み方の2つは「違いなし」でいいんじゃない?

ところが、それではダメなのです。
意味が同じなのは「苗字」と「名字」だけでなく「姓」も、なのです。

!! 衝撃です! 話が終わってしまいました……

現在では書類などにこのどれが記されていても、すべきことはご自分のフルネームを書くこと。違いはありません。

3つ共に、その「フルネーム」の個人の名前、に対しての「家の名前」として使われる言葉です。

だいたい、それ以外の書くべきことを、私たちは持っていないのですね。


では、なぜ同じ意味の言葉に三通りもの呼び名があるのか?

ここ、ハッキリしてほしいです!
ハッキリできないなら、一つに統一してほしいです!!


……勝手に一つに統一すると、何かと怒られそうなので……では、ハッキリの方で!
これら、呼び方の違いは、彼らの辿ってきた歴史に答えが隠されているのです。


まずは「姓」。「姓名判断」にも使われているこちらから、見ていってみましょう。

「姓」とは?

「姓は車、名は寅次郎、人呼んで、フウテンの寅と発します」

かの有名な寅さんも、言っています!


「車」が寅さんの「姓」なのですね。「名字」のことですね。あれ?「苗字」?

この錯綜状態から抜け出るために遡る時代は「氏姓制度」のとられていた古代~律令時代です。


……「氏姓制度」「律令時代」? なんのことやら……

ですね。
サラッといいますと、

  • 氏姓制度: 日本古代の支配制度
  • 律令制度(時代): 律令に基づく統治体制。「律令」とは刑法(律)、行政法(令)、中央集権国家として国を治めていくための基本的な法典。この体制が存続した時代。

……なんのことやら……

では、サラッではなく、これらに「姓」がどのように絡んでいるのかを、もう少し詳しく見てみましょう。

「氏姓制度」と「姓」

「氏(うじ)」と「姓(セイ)」の制度?

「うじ」と「カバネ」の制度です。
「姓」は「カバネ」と読まれていました。


「氏」とは同じ祖先をもつ人たちの親族集団のこと。かつての日本では、この単位で集団生活を送っていました。
そして段々とその「氏族」を支配するようになったのが「朝廷」です。


「氏」、ピンチです。今までのようにはのんびりと暮らしていられません。

有力な「氏」たちには、氏族間の競争に負けないためにも、朝廷で、より責任のある政務に参加し、またその役職を得ることで自分たちの身の安泰を図る必要が出てきたのですね。


その称号は天皇から、地位・役職を表すもの、として与えられました。

「君(キミ)」や「臣(オミ)」「連(ムラジ)」「直(アタイ)」「造(ミヤツコ)」「首(オビト)」「史(フビト)」「薬師(ヤクシ)」などなどがあり、それら役職名が「姓(カバネ)」と呼ばれるものです。


つまり基本的な単位である「氏」に、「姓」による(これは世襲、代々受け継がれるもの)社会的地位の優劣を与え、政治的な秩序づけとしたのです。

こうした支配制度のことを指し「氏姓制度」です。

「姓」とは「カバネ」。現在のように「家の名前(家名または家号)」ではなく、階級や家の格を表すものだったのです。

律令時代・律令制度とは?

「律」は刑法を示し「令」は行政法を表しており、奈良時代を中心に行われてきた、これらを基にした中央集権的な制度のことです。


と、いわれてもよくわからないのですが、要するに支配層となる天皇を中心とした貴族(中央)が、その権限や財源を確保、中央に集中させようと執られた制度、その法律(律令)で統治された国家の体制が「律令制(度)」です。またその時代、大化の改新後から10世紀ごろまでを指し「律令時代」と呼びます。


さて、ここで国民の色々を把握するためにも「戸籍の登録」が義務づけられることとなります。
そして「口分田(くぶんでん)」を支給。6歳以上の男女に、一生使える田を分配し、その代わりに納税の義務を与えたのです。財源確保です!
♦平城京と律令国家② 中学社会歴史 奈良時代2
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=hyBSvVET8TA&w=560&h=315]
その後も複雑なことが歴史的には起こるのですが、それはひとまず措いておき「姓」に戻れば、もう国民誰もが持ってしまったことになります。

こうして「姓」は朝廷での役職を示すだけのものではなくなっていくのです(一般庶民は「部民」と呼ばれ、豪族の所有民として「○○部」といった姓であることが多かったようです。が、また江戸時代には幕府の政策により、武士、公家以外は名乗れない、などなど、様々な局面を迎えるのですが、とりあえずここでは歴史というより「姓の始まり」の意味での説明とさせていただきました)。


「姓」は「カバネ」、始まりは「天皇から与えられた朝廷での役職を表す尊称」だったものが、戸籍制(全国民の戸籍登録)により、少しずつ、ニュアンスの違ったものへとなっていったのです。

「苗字」とは?「名字」とはどこが違う?

さて「姓」はもともと「役職名」のようなもの。では「苗字・名字」は?


というより、表記の違う2つ、何が違うの?

使われるようになった時代が違うのです。

古くから使われているのは「名字」の方。その起源は平安時代です。


開墾地を私有化、または耕作を放棄された土地を私有化する、買収などにより、豪族や有力な農民等が、自分の土地(田地)を拡大。
彼らを「名主(みょうしゅ)」と呼び、その田地が「名田(みょうでん)」です。

一定規模の田地に年貢や課役などの責任者の名前を付けたのですね。責任者として、その権利を明らかにしたのです。
「○×」の土地を納めている「〇×さん」といった感じですね。

そしてその一部が、後に武士になったりします。

武士が勢いを増してくると、今度は自分の領地はここだ! とアピールするために、その領地の名を「名字」として名乗ることになっていきます。


「名字」の「字」は「あざな」とも読み「実名以外の名前」といった意味を持つ言葉。


「名田」の名のついた「あざな」=「名字」です。

実名は「姓」。天皇から授かったものなので、変えるわけにはいきませんが「名字」は、自由に名乗ることができたのですね。


また、有力な氏族の「○○氏」などでは、その数が膨大なものになっていきます。

平安以降には氏族の中でも特定の姓を持つ者たちのみが朝廷での仕事を任されるようになり「姓」は本来の意味を徐々になくすとともに、その種類自体が少なくなっていったからです。


上記のように「天皇から授かっている姓」は変えることができないため、通り名的に治めている土地などにちなんだ「名字」を名乗るようにもなっていきます。

加賀を治めている藤原さんは「加藤さん」に、伊賀を治めているなら「伊藤さん」といった感じですね。


「藤原姓」をはじめ「四姓」といわれる「源氏・平氏・橘氏」などの姓を持つ氏族の分家が、その本拠地となる地名を自分の名字として名乗る、いわゆる名字発祥の地は、ですので、各地にあるのですね。


つまり「名字」とは、その本拠地や領地など、所有地にちなんだ「通り名」として使われたという由来を持つ言葉です。

では一方の「苗字」は?


こちらが使われ始めたのは近世、江戸時代からです。

「名字」に比べると、新しいですね(実際には江戸も大昔ですが)。


とは言ったものの、先ほどチラリと書きましたが、幕府の政策により一般庶民には苗字を名乗ることは許されていませんでした。
家柄が良かったり様々な功労等により、農民や町民に対し苗字を名乗ることと刀を差すことを許可(苗字帯刀)し、武士に準ずる資格を与えることもありましたが、それは稀な処遇だったのですね。


さてさて、その頃に作られた「苗字」という言葉。なぜ「苗」?

「苗」には「子孫・血筋」の意味があり、また「苗裔(びょうえい / 末の血筋・遠い縁の子子孫・末子孫の意味」という言葉から、「家が代々続いていくこと」を願い、その意味を込めて使われていた言葉なのです。

「名字」は同じ名前の土地、領地を支配していた、といった始まりの意味を持ちますが「苗字」には、その意味はありません。


「血族・血統」、つまりは祖先を同じくする者といった意味で「苗字」を名乗ったのです。
時代ですね。江戸時代なのです。


現在ではどちらも同じ意味で使われていますが「○○家代々の墓」などでは、ですので由来的にこちらの「苗字」の意味合いの方が強いのですね。


そして時代は変り明治維新後の1870年に一般庶民への苗字の使用許可が下り、ついにすべて苗字を名乗ること、いや、もう名字でも姓でもいいから、となったのは1875年のことです。

明治政府が戸籍を整備するためにどうしても「名前的なもの」が必要だったのですね。


ここにきて、「姓」「苗字」「名字」(そして「氏」も)の違い、区別はほぼなくなったのです。そしてそのまま、現在に至る、となっています。


ただし「苗字」の「苗」を「ミョウ」と読ますのは常用漢字外となるため、「苗字」か「名字」か? に関しては、正式な表記を「名字」としています。

また「姓」はどちらかと言えば「その人の家の名」を、「名字 / 苗字」は「その人の名(太郎とか花子とか)に対するもの」といったニュアンスの違いはあります。

ですが、やはり通常ではどれを使っても、誤りではなく、同じ意味を持つ言葉となっています。

「姓」と2つの「みょうじ」・違いのいろいろ

何となく「歴史」のお話のようになってしまいました……すみません……


現在では同じ意味、同じ使われ方の3つ。結論はこれなのですが、ここでもう一度だけ、それぞれの背景と関係をサラッとまとめてしまいましょう。

歴史の古い順は?

「姓」(奈良時代が中心) > 「名字」(平安時代に起源あり) > 「苗字」(江戸時代に作られた言葉)

それぞれの由来は?

  • 姓: 地位や朝廷での役職を表した言葉
  • 名字: 所有した土地や本拠地とした領地の名を用いた「通り名」的なもの
  • 苗字: 血族・血筋が由来の「家が代々続くこと」を願い作られた言葉

「苗字」と「名字」、一般的なのは?

「名字」の方です。

明治以降の日常的な呼称は「苗字」でしたが、戦後、常用漢字の読みとして「苗 = ミョウ」が含まれなかったため、現在では「苗字」表記の登場回数は減ってしまっています。

終わりに……

長々と書いてきたわりには、最後、あっけなくまとまってしまった感がもの凄いのですが……


一番身近と言ってもいい「自分の名前」を表す言葉に、こんな背景があったとはちょっと驚きです。


「姓」に至っては「役職名」……寅さんの役職、「くるま」……?

背景というのは、歴史を流れている間に、どんどんと薄れて、いつの間にか当たり前のように、違った意味合いで使われるようになるのですね。


いかがでしたでしょう。
「姓」「苗字」「名字」を巡るモヤモヤも、少しでも薄れているようでしたら嬉しいです!

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