診断されたご本人がそう悩んでいるのか、診断された人を見て、ご本人以外の人がそう疑問に思っているのか? ずいぶんと異なった印象になります。
とはいえ、「うつ」と「甘え」はそんなに似たものなのでしょうか。
やらなくては、と思っているのに、どうしても身体がいうことを聞かずやることができない「うつ」。まぁ、いいか、とやらないでおく「甘え」。こんなにはっきり違うのに?
なぜ「うつ」は「甘え」てるだけ、と思われてしまうことが多いのか、なぜ「うつ」と診断された方はそれを「甘え」なのでは? と悩むのか等含めまして、「うつ」と「甘え」の違い、その見分け方などを説明いたします。
「うつ」と「甘え」の境界線は曖昧かもしれませんが「うつ」で苦しんでいる方たちに少しでも寄り添えますよう、何かの参考としていただけましたら幸いです。
目次
「うつ」は「甘え」じゃない! 違いはココ!
ご本人がどれほど苦しんでいるのか、他の人にはなかなかわかってはもらえないものです。例えば、学校に行こうとするとお腹が痛くなってしまうお子さんを思い浮かべてみてください。
その腹痛は、本物か? 身体に異常はないのに登校時間になると決まって腹痛が起きるのはなぜか?
「仮病」などとも言われますが、理由があってどうしても学校に行きたくない場合、嘘ではなく本当に腹痛に見舞われているお子さんもいるのです。
ただし、実際にはお腹が痛いわけではなくても、痛いふりはできます。また、ご両親には、その痛みが本物なのか演技なのかを完全に見抜くことはできません。見分けがつきにくいのです。
これは「うつ」と「甘え」の関係にも似ています。
会社に「行かなきゃ」と思っているのにどうしても「身体がいうことを聞かない」というのは上のお子さんの起こす「腹痛」と同様、立派な症状です。
一方「偽物の腹痛」つまり「身体がいうことを聞かないわけじゃないけど」何となく行きたくないから休んじゃう、というのが「甘え」です。
「うつ病」の患者さんの場合「会社を休む」ということでその日会社に与えてしまう「迷惑」について考え、それではダメだ、と気合を入れ直したりもします。
「会社に迷惑をかける自分」というのが許せず、何度も行こうと努力します。怠さを感じているのなら、風邪薬を飲んでみたりもするかもしれません。
でも、行かれないのです。どうしても身体がいうことを聞いてくれないのですね。そして、そのことに対して、ご自分を責めてしまいます。
「会社に迷惑をかけるなんて、自分は情けない奴だ。きっと弛んでるんだ。甘えてるんだ」になってしまうわけです。体がいうことを聞かない程つらいのにもかかわらず、です
「甘え」の場合は簡単ですね。「休みたいから休んじゃえ」なので、会社にかける迷惑などはあまり気になりません。
結果的には同じでも、その過程、その後の気持ちはまるで違うことがおわかりいただけるかと思います。
「うつ」病の患者さんには、その「うつになった」ことすら自分のせいだと思うような、まじめすぎる方が多く「これはうつ病なんかじゃなく、単に自分は甘えてるだけなんじゃないか?」と冒頭のセリフのように悩んでいるのです。
自分のやるべきことがわかっていて、今まで通りにしっかりとやっていきたいという意志もあるのにどうしてもできないのが「うつ」。自分のやるべきことより、自分の欲求を優先させても特に罪悪感を感じないのであれば、それは「甘え」です。
「うつ」とは?
さて、そんな「うつ」とは一体どのような病気なのか? どんな人が罹りやすいのかを、少し詳しく見ていってみましょう。「何となく気分がスッキリしない」や「やる気が出ない」などの憂鬱な感情は、どんな方でも少なからず持っているもの。ご家族や周りの友人等とのかかわりや協力のもと、何とか乗り越えていくものですね。
では「うつ病」患者さんの場合にはなぜそれができないのか?
これにはいくつかの要因が挙げられます。
まずは脳内物質の分泌異常。
「セロトニン」「ノルアドレナリン」「ドパミン」と呼ばれる3つの神経伝達物質の分泌のバランスが崩れてしまっているのです。
そのことにより、心のバランスもうまく取れなくなってしまうのですね。
「心の病」というよりは本当に「身体(脳内)に異常」が起きているわけです。
そしてその他の要因として、身体の病気や過度のストレス等の、身体・環境からのものも加わります。
うつ病を発症する原因は、まだはっきりとはわかっていません。
しかし、脳内物質のバランスの崩れを始め、上記のようないくつもの要因が重なり、ついには「自分ではどうすることもできない」状態へと落ち込んでしまうのです。
その主な症状には、
- やる気が出ない
- 頭が回らない
- どんなことでもマイナスに考えてしまう → それでも患者さんは常に「やらなきゃいけない」と思っています。ですから、このような状態に陥ったことにますます焦り、そのことがさらなる悪化にも繋がってしまうのです。
- 食欲がなくなる
- 睡眠障害
- 慢性的な体の痛み
そして、感情面での落ち込みと共に、身体にも、
うつ病を発症しやすいとされているのは、融通が利かないまでに真面目で、責任感が強いタイプの方。周囲からの評価も高いため、重要なポジションや仕事を与えられる方も多く、それに応えようとして頑張ってしまうのですね。
例えばトラブル等が起きた場合にも、何とかしなきゃ、と一人で背負い込もうとしてしまいがちです。そのことに悩み、またそれがストレスとなり、悪化の一途をたどるわけですが、ご本人にしてみれば、問題を解決できない上にストレスも溜め込んでしまう「自分が悪い」となってしまうのです。
そして上記のような症状が起こり始め、気持ちが落ち込みつつも焦り……と、繰り返されてしまうのが「うつ病」の特徴。それではヘトヘトニなってしまい「やらなければとは思っているのに、身体がいうことを聞いてくれない」状態になってしまうのも容易に想像がつきます。
最悪、ご自分を傷つけてしまう「自傷行為」さらに病状が進めば「自殺」を考えることも十分にあり得るのです。
「うつ病」に罹った患者さんに一番必要なのは、何よりも「休息」です。
十分に頑張った、これからまた頑張れるように、今の仕事は「休むことだ」と、ご本人が納得することが、本当に大切なのです。
どうして「甘え」と思われる?!「新型うつ」って何?
♦新型うつ病について
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=74BkoEmeBbs&w=560&h=315]想像するだけでこちらまで苦しくなってしまうような「うつ病」患者さんが、ご自分を「こんなのはうつじゃない、単に自分は甘えてるだけだ」と考えて悩むことは「違うって!」とは思うものの、何となくわかる気もしてきます。
けれど、他人から見て「うつ病って診断されたのって、嘘じゃない? ただの甘えでしょ?」と思われるのはなぜか?
それには「うつ病」のもう一つのタイプ「新型うつ」と呼ばれるものがあるからなのです。
「うつ病」には「メランコリー(親和)型うつ病」と「非定型うつ病」とがあり、前述のような一般的なうつの症状を持つものを「メランコリー型うつ病」、それ以外の「新型うつ病・逃避型うつ病・ディスチミア型うつ病」が併せて「非定型うつ病」とされています。
「非定型うつ病」とはその名の通り「定型ではないうつ病」、つまり「メランコリー型うつ病」ではないものの総称です。
それらの特徴、特に「新型うつ病」と呼ばれるものの特徴を、まずは挙げていってみます。
- 自己中心・マイペース・依存型
- うつであること、それを公言することに特に抵抗なし
- 何かあれば、それは「他人のせいだ」
- 食欲・睡眠時間の増加
- イヤなことには気分は落ちるが、楽しいことでは気分が上がる
- 20~30代の若者、仕事をしている女性に多い
- 薬は効きにくい傾向にある
そうなってしまうのも仕方がないかも、と思うような特徴を示しています。一般的な「うつ病」とは真逆ですね。
しかし、次の特徴、
- 他人からの言葉を否定的に受け取る。自分が拒否されていることを過敏なまでに恐れる
「新型うつ病」を発症しやすい人の傾向として、生い立ちには、
- 良い子として育てられ、手間がかからなかった
- 成績優秀だった
- プライドが高い
- イジメられていた
小さい頃から「良い子」で成績もよく、優しく育てられていた人が、ある日イジメにあう。もしくは、今までの順調さからは考えられないような(あくまでご本人からすれば)体験をする。これは、確かにものすごいストレスです。
このストレスを内に秘めながら、今度は社会に出て、仕事で感じるマイナスの要素までが加わるのです。
まるでうつ病であることを盾にして、何とかこれ以上の攻撃から自分を守っているようにも見えますね。
確かに「甘え」に見えるかもしれない「新型うつ病」ですが、脳内物質の分泌に異常が見られるのは「定型うつ」と同じです。
本人以外にはその辛さがなかなかわかってもらえず苦しんでいることもまた事実です。
「うつ病かも」と自称しているだけで病院に行かない、などであればそれは「甘え」と呼ばれても仕方がありませんが「新型うつ病」の患者さんも、治そうと通院し、病気と向き合っているのですね。
「うつ」と「甘え」はここで見分ける! 境界線はココ!
脳内物質のバランスの崩れと、生まれてからこれまでの様々な経験・体験が形として表れてしまった「うつ病」。- ご本人に「やらなきゃ」という意志があるか
- やるべきことをしっかりやっているか
つまり「やりたくないから、やらない」のが「甘え」、「やりたいのに、やれない」のが「うつ病」なのですね。
また「甘えか?」 と思われがちな「新型うつ病」でも「昔からそんな性格」だったのなら性格的な「甘え」なのかもしれませんが、そうでない場合には「今まではそんなことなかったのに」という突然の変化が見られます。
何らかのきっかけにより、今まで通りにしていたらストレスで決定的なことをしてしまうかもしれないと、自己防衛が働くようなものです。
そんな時に「甘えだ!」と叱咤激励等で気合を入れられてしまうと、もう、どうすればいいのかわからなくなってしまいます。攻撃性が自分や他人に向かうこともあるのです。
このように「うつ」と「甘え」には「本人にやる気はあるか」「今までと違い、急に変化が現れたか」などの大きな違いがあります。
うつ病と診断された方の中には、それでも「自分のは甘えだ」という思いがなかなか消えないことも多くの場合あります。
そんな時には周りの皆さんで、少しでも患者さんの負担が軽くなるよう、休息を勧めたり、通院への同行、日常生活のリズムを保てるよう協力する等、寄り添ってあげてくださいね。
終わりに……
確かに、痛みはご本人以外には伝わりづらいもの。まして、目に見えない痛みであればなおさらです。「非定型うつ病」はWHO(世界保健機構)の診断基準では「うつ病」の一つとして認められています。
しかし、2012年の「日本うつ学会」による「うつ病のガイドライン」では「新型うつ病(現代型うつ病)」という疾患名をもつ病気は存在しない、とされ、うつ病の軽症化をその言葉で表しているに過ぎない、といった考え方もあるようです。
「うつ病」が軽症化しただけなら、それはそれで、とてもいいことですね。
重要なのは病名ではなく、症状の「変化」です。
重症でも軽症でも、少しでも辛さが軽減する方向に変化していくことが大事なのです。
いかがでしたでしょう。
患者さんも周りの皆さんも焦らず、必ず来るゴールが目指せますよう、多少なりともお役に立てていたら嬉しいのですが。
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