こんな『違い』があったんだ!

「解約」と「解除」と「終了」の違いとは? 民法上ではどうなの?

契約

え! 携帯のコンテンツ、1つ「解除」したいだけなんだけど、民法とかのお世話にならなきゃなんないの?! じゃぁ、プロバイダ変えたくて「解約」したら裁判とか!?

じいちゃん、定年退職したんだけど、労働契約の終了、って言ってた……。
民法って……大変だったんだなぁ。肩、いっぱい揉んでやろ……

契約

大丈夫です! 大幅な勘違いです! でもおじい様の肩を揉むのは全く問題ありませんよ!

「解約」「解除」「終了」、民法上はさておき、普段の生活でも案外頻繁に使われているこの3つの言葉。

上の「携帯電話」のように、何かの「契約」を取り消す際には「解約・解除」、どちらも普通に行うものです。
「終了」に至っては「本日の営業は終了しました」など、「はい、終わり!」の意味で、さらに身近に感じる言葉かと思います。


さて、この3つ。使われ方にちゃんとした違いがあるのをご存知でしょうか。

さらには普段使いとはちょっと異なる「民法」上での意味、など、なかなかに面倒くさい使い分けがあったりもするのです。


「解約・解除・終了」、それぞれの違いや使われ方、民法でのもう一つの姿等々、ご紹介いたします。

「民法」と聞くと途端に小難しく聞こえてくるかもしれませんが、ニュースを騒がすようなおっかない事件ではない方を扱うのが「民法」、味方になってくれる方が「民法」(たいていの場合)です。


違いを知り、いざという時に「そういえば、そうだった!」など、何かのお役に立てれば、またそんなこととは無縁であっても「豆知識増えた!」と楽しんでいただけましたら幸いです。
目次

「解除」「解約」「終了」、ここが違いのポイント!

  • 解約: 将来効
  • 解除: 遡及効
  • 終了: 将来効
……そんなこと言われたってわからないです……


ですが「解約」と「終了」は「将来効」、「解除」だけが一つだけ「遡及効」と、2つのグループに分けられそうですね。

「遡及」とは「そきゅう」と読み、「過去にさかのぼること」を意味する言葉。「遡及効」なら、その効果がある、といった意味になります。


一方の「将来効」、こちらはわかりやすいですね。将来に向かって効果を発揮するわけです。

そして、これらを「既にしている契約を解消する」時に用いる言葉だとすれば、
  • 解約:「将来に向かって」契約を解消させること
  • 解除:「過去にさかのぼって」契約を解消させること
  • 終了:「将来に向かって」契約を解消させること
となります。


これだけでは、まだまだサッパリわかりませんが、とりあえず「解約・終了」は将来に向け、「解除」のみ過去にさかのぼって契約を解消させる時に使われる言葉、と覚えておいてくださいね。


それでは少しずつ、順を追って、それぞれの違いについて探っていってみましょう!

まずは「解除」。広義での意味はこちら!

「解除」は、契約に関係のない場合にも「禁止・制限をなくし自由な行動を許す」などの意味にも使われる言葉です。

パソコンなどでも、間違って選択したものを「解除」したりします。


一方「契約の解除」の場合の「解除」、こちらには「当事者間で有効に締結された契約関係を終了させること」の意味があります。


簡単に言えば「問題なく交わされた契約を終わりにすること」ですね。

これには色々な場面が想定されます。


「問題なく交わされた契約」、大抵の契約は問題なく交わされるものです。

例えば部屋を借りるなどの「賃貸契約」、これからはここでこんな感じで働いてね、という「雇用契約」などなど。

これらが「終わりになる」のはよっぽどのことがない限り穏便な理由からのものです。契約の期間が満了した、などが一番多く、また一般的な理由ではないでしょうか。


「解約告知」と呼ばれる「解除」の一種となります。


広義の「解除」には「解約(解約告知)」も含まれているのですね。


ですがその中にはごく狭い範囲の意味を持つ「解除」もあり、法律(民法)上で使われる場合はこの「狭い意味」のものを指し「解除」としています。

★では「解除」の狭義は?

契約に関しての「解除」、つまり「問題なく交わされた契約を終わりにする」の中でも、当事者のうち一方の意思表示によって解消されるもので「その契約により生じた債権・債務関係を契約成立前の状態に回復する制度のこと」が狭義での(また、民法上使われる)「解除」です。


そしてその「解除」され解消された契約は「初めからなかったもの」とされます。


例えば悪徳商法によって成立してしまった契約も、この「解除」をもってすれば「初めから契約なんてしていなかった = 支払い等の義務(このことを「債務」と呼びます)も必要なし」とすることができるようになるわけですね。当然もう一方の側からの「支払い等の請求の権利(これが「債権」です)もなくなります。


契約時まで遡って(さかのぼって)契約自体を無効にし(原状まで回復させる)、債権・債務の関係も契約前の状態に戻しなくしてしまう、というこの効果が「遡及効」です。

本来「契約」とは法的な拘束力を持つものですので、そう簡単には解消することはできません。


ただしそれなりの理由のもと、当事者の一方が契約を解消したい旨を意思表示し、それが成立すればその契約は「解除」され、双方の債務・債権関係」も解消されることとなるのです。

ではでは「解約」とは? 「終了」との違いはどこ?

何となく「解除」には不穏な空気がまとっているような気がしてきました。
契約……債務……原状回復……

そんなに危険を伴った行為だったのでしょうか。


いえいえ、契約自体、いちいち怯む行為ではありません!

先ほどのおじい様のように、定年を迎えられ、皆さんから笑顔で送られる「解除」もあるのです。むしろ、そちらが普通です。

賃貸物件なども、通常2年契約で結ばれ、それ以降も住み続けたいのであれば「更新」手続きを取り、他所に引っ越す場合には、契約の「解除」です。

どちらも「契約自体をなかったもの」とはしていません。

ですがこの場合、前者、おじい様の「解除」には「労働(雇用)契約の終了」、後者、賃貸契約の「解除」では「解約」と呼ばれるのが一般的。


民法では、前述の「解除」も含め、「解約」も「終了」を意味するものも、全て「解除」と表すことが多いのですが、ニュアンス的には「解約」「終了」と分けられて使われています。


法律用語ではあいまいな括りとなっていて紛らわしいため、学者さんなどが便宜上、意味の違いを呼び分けるために作り出した言葉を「講学上の言葉」と言います。

法律用語を一般用語として言い換えた、といったような言葉ですね。

では「解約」と「終了」は同じ意味で使われている言葉なのか? と言いますと、微妙にそれぞれ、違う部分を持っているのです。


面倒くさいですね……私が悪いわけではないのですが、ごめんなさい……


さて、では「解約」とは?

その契約が「何かを買った」など一時的なものではなく「賃貸借」や「雇用」「委任」など、継続的に続くものの解除時に使われる言葉です。

民法上では大きくは「解除」で括られますが、その中でも「解約告知」に当たるもの。

例えば2年契約でアパート等を借りる、というのは「2年後の契約の解消」を念頭に置きつつ借りる、ということになります。

「労働(雇用)契約」にも契約の期間や条件が定められています。

期間が終了するまでの契約、つまり満了時には契約を消滅させることを、契約を交わす時から告知していることになりますね。


けれど、解約するまでは、契約の効力は有効に続行し続けます。
「解除」の時のように、契約時までさかのぼって今までの「債務・債権関係」を元通りにする必要もありません。というより、できませんね。


「いずれ解消されることが前提の契約」の解消時に使われるのが、この「解約(解約告知)」です。

ただし、民法の法文上では「解除」で表されることが多く、文字だけでは区別がつきません。

文脈から「あ、これは「解約」の方だ」と判断するしかないのですね。

そしてその判断の基準となるのが、上記の、
  • 継続的な契約で、将来(契約期間の満了時)に向け、契約を解消させていくタイプのものか
  • 契約解除時に、原状回復の義務が生じない契約であるか
がポイントとなってきます。


このように考えると「解約」と「終了」はほぼ同じ意味で使われているのがおわかりいただけますでしょうか。

ただほんの少しのニュアンスの違いを挙げるとすれば、こちら。
  • 解約: 当事者同士の話し合いのもと、契約が解除される
  • 終了: 契約期間が満了となる
微妙ですね……


ただし「解除」で「すべての債務の履行の満了」つまり、借りていたものをすっかり返し終えることは「契約の終了」であり「解約」とはまた少し違った意味になりますね。


また「労働契約の終了」の場合でも、定年退職などの場合には「終了」、解雇なら「終了」ではなく「会社からの一方的な解除」となります。そうなると、解雇に「解約」はあまりにも当てはまりません。

本当に微妙ですね……

★「解除」と「取消(解除)」はどこが違うの?

法的な拘束力を持つ「契約」を「なかったもの」としてしまう効力を持った「解除」。

その条件として、以下のものが挙げられます。
  • 不実告知によるもの: 契約の際、重要な部分で事実と違うことを伝えた
  • 断定的判断: 将来の不確定事項を、必ずこうなりますから! などと断定的に伝えた
  • 不利益事実の不告知: 不利益な部分を知りつつ、利益の部分のみしか伝えなかった
  • 不退去: セールス等、帰ってくれない……
  • 監禁: 羽毛布団は買わないって言っているのに……販売会場などから帰らせてくれない
もう契約時から問題ありです。問題があり過ぎて「契約」自体に意味がない、とされ白紙に戻す手続きが取られます。

そのことを「取消解除」と呼びます。

上記のものはその中でも「消費者契約法」によるものです。


一方「民法」による「取消解除」は、
  • 詐欺や脅迫での契約
  • 消費者が未成年、成年後見人、または精神的な疾患を抱えた人など、制限行為者との契約

    (「制限行為者」とは、行為能力に制限を受けた方のことです。精神の障害などにより、法律行為には「保佐人」「補助人」などの代理人、またはその同意が必要とされています)
などとなります。

こうしたケースでは契約時までさかのぼって取り消すことができるのです。


……? 「解除」とどう違うの?

「解除」も同じく「遡及効」ですが、違いは「契約時」です。


「解除」での「契約」には、問題ありありの「取消」と違って、法律行為の時点では問題なし、完全に有効なものについての「契約の解消」となります。


「債務不履行」という言葉がありますが、これはかみ砕いて言いますと「契約成立後の事情により、債務・債権のいずれかが行えなくなった状態」のこと。

かみ砕いてもわかりづらいので、例えば彼氏に、日曜日に高級フランス料理店でご馳走してもらう約束をしたとしましょう。

  • あなたの債権「日曜日に約束通り高級フランス料理店での料理をご馳走して」と請求すること。
  • 彼氏の債務「日曜日に約束通り高級フランス料理店での料理を奢る」という義務を果たすことです。
  •   → 彼氏に急な用事ができ日曜日が月曜に変更された場合、それは「履行遅滞」、彼氏が高熱でダウン、またはフランス料理店が閉店したなど、もう約束自体が無理な状況なら「履行不能」彼氏のお財布事情から高級ではない庶民的なフランス料理店へと変更された、などでは「不完全履行」と呼ばれ、民法ではちゃんと履行するように、という強制や損害賠償の請求、また契約の「解除」が認められています。

つまり、ある契約において、一方の「請求する権利」に対するもう一方の「すべき義務」がかみ合わず法律上の不備が起きた場合には、相手側は不備を正すことを求められ、他方は損害賠償の請求、そして「契約の解除」ができるということです。

このようにどちらも「遡及効」をもち、契約自体をなかったものにする部分は同じでも「取消解除」と「解除」には契約時の有効性に違いが見られるわけですね。

微々たる違いですが、不動産売買契約などで考えると、ちょっと見逃せない気もします。

一応、気に留めておく程度で結構ですので覚えておいてくださいね。
(この他にも、契約段階で「このような時には解除できる」という取り決めがあらかじめ双方で交わされている場合などでも「解除」は可能です)

♦アルゼンチン“債務不履行”へ 国債返済で交渉決裂(14/07/31)
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=CgiKbCTy1jM&w=560&h=315]

「解除」「解約」「終了」、違いのあれこれ

……やっぱり法律が絡むと、何かとややこしくなります

ではここで「解約・解除・終了」の違いのポイントをわかりやすくまとめてみましょう。

「解除」ポイント

  • 遡及効で契約前の状態(原状)まで「債権・債務関係」を回復させる。つまり契約をなかったことに。
      → 債権・債務のバランスに不備が生じ「債務不履行」が起きた場合の解決に活躍。
  • 当事者間で正式に契約が交わされていることが条件
      → 詐欺・脅迫での、または制限行為者との契約などの場合も「解除」できますが、これは「広義の解除(取消)」です。通常「解除」とは、民法540条における「狭義の解除」、有効な契約が交わされた場合でのことを指しています。
  • 当事者の一方の契約違反を受け、他方が契約を終了させる、といったイメージ。

「解約」ポイント

  • 「賃貸借」「雇用」「委任」など、継続的な契約を将来(契約満了時)に向け消滅させること。
  • 解約までは契約は有効に保たれる。
  • 契約前に戻す「原状回復」の義務はなし。
  • 民法の法文上では「解除」と表されることが多く、紛らわしいため講学上の「解約」を使い、区別するための言葉でもある。
  • 双方納得の上の、穏便な契約の終わりのイメージ。

「終了」ポイント

  • 「解約」とほぼ同義。
  • 契約期間の満了時に使われるイメージ。

終わりに……

いかがでしたでしょう。


最後のまとめと、それぞれの説明のバランスの悪さが、法律用語の面倒臭さを如実に表しているような……

期間を決め、いずれ解消される契約を交わした場合のものなのか、永久に自分のものになるはずだった何かのために交わした契約を、何らかの事情で解消せざるを得なくなった場合のものなのか、解約と解除の大きな違いはそこです。

終了は、解除・解約のニュアンス部分に強く左右される使われ方をしますね。


大した違いじゃないじゃん……

正にその通りなのですが、重箱の隅をつつくかのような細かさが、あの手この手で悪いことを考える人たちへの対抗手段としては有効なのかもしれません。


悪い人がいなくなれば、法律用語も少しは単純化されるのでしょうか……


これからも「民法にはお世話にならない方の解除」のみの楽しい毎日が続いていきますよう、切に願っております!

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