いきかす? かつかす?
……!!
稀に見るハイレベルな読み間違いです!
ですが、そう言われれば「活」って「カツ」以外に読み方なかったような……
「生かす」「活かす」、どちらも普通に使っていますが、何かの基準で使い分けるものなのか、その時の気分でどちらを使ってもいいものなのか、使い方を間違えると笑われちゃうようなはっきりした違いがあるのか……考え始めると、もう、怖くてどちらの言葉も使いたくなくなってきてしまいます。困ります。結構使う言葉なのに……
「生かす」と「活かす」、その違いと使い分け等、解説いたします。
「経験をいかして」などは履歴書を書く際のお約束のような言い回しでもあります。ひらがなで書くのはちょっと……
皆さまが今後もガンガン「生かす」「活かす」、どちらも使っていけますよう、お役に立てれば幸いです!!
目次
「生かす」と「活かす」の違いはココ!
読み方はどちらも同じ「いかす」。辞書などでも「生かす / 活かす」など、一つの言葉として書かれているものも多いですが「生」と「活」の文字の違いは黙認できません!
まずは、そこから見ていってみましょう。
- 「生」の意味: いきる、いかす こと
- 「活」の意味: 勢いよく動く、生き生きしている / 動きを殺さないで役立てる / 生きる、暮らす など
同じようで、何となくニュアンスが違います。
「生」はダイレクトに「生死」に関わる感じ。「活」には「活用する」の言葉通りの印象が強いですね。
そのことから、
- 生かす: そのまま「生死」に関わる「生きる」ことに多く使われる。「生きてます!」というよりは「死なないようにする」といったイメージあり。
- 活かす:「生死」に関わることではなく、能力や特性を有効に使う、活用するなどのニュアンスが、前面に押し出されている感じ。動きのある積極的な印象あり。
などと使い分けられていることが多いのです。
しかし、冒頭にもチラリと書きましたが、常用漢字として「活」には「カツ」という読み方しかありません。
状況に応じて2つの「いかす」を使い分けることはOKなのですが、上記の通り「活かす = いかす」は常用漢字の読みではないため「公文書」や「新聞」などで使うことはできません。また「義務教育」では間違い、とされることもあります。それ以外は問題なし。
ですが「ニュアンス」の違いが大きな使い分けポイントとなる2つの「いかす」。その「ニュアンス部分」が間違っていると、字面として何とも気持ちの悪いものとなってしまいます。
以上を踏まえた上で、続いて大事な「ニュアンス部分」、どんな場合にはどちらが使われるのか、について、行ってみましょう!
「生かす」とは? どんな時に使われる?
「顔を見られた! 殺すつもりはなかったんだが……生かしとくわけにはいかなくなっちまったぜ……」物騒すぎです!
が、このように「殺す」を対義語として持つ「生かす」は「殺さないでおく」「生き長らえさせる」といった場面で使われます。
あまり積極的に「生きる」感じではありませんね。
上記の「生かしておけなくなってしまった人」も、犯人(たぶん)の顔を見るまでは快適に生かされていた、とはとても思えません(手足を縛られてる、とか、監禁されてる、とかなのでしょう)。
生命維持装置のようなニュアンスの「生かす」。「命を保たせる」「生存を維持する」といった具体的な「生死に関わる生命」をとりあえず「長らえさせる / 生かしておく」ような意味合いのものには「生かす」です。
「活かす」の意味と使われ方♪
「この経験を活かして~」出ましたね、履歴書での定番!
先ほどの2つの比較にもありましたように「活かす」には、
- そのものに潜む良さ(能力など)を十分に引き出して使う
- 工夫してもう一度、他の用途に使う
- 才能を発揮する(させる)
- 引き立たせる
- 何かと接触して得た(他から与えられた)ものを咀嚼し、自分の中に取り入れる
能力を活かしたり、「もう使えない」と捨てるのではなく再利用して活かしてみたり、自分のいい部分を活かして何かに役立てたり、甘みを引き立たせるために、お塩の塩味をあえて活かしてスイカを食べたりするわけです。
誰も死にそうになったりしていません。むしろ積極的な感じです。
このように、直接の生命ではなく、能力や特性などを有効に使う場合にはこちらの「活かす」がしっくりきます。
ちなみにこちらの「活かす」の対義語も「殺す」。
ですが「才能を殺す」「いいバランスで出した料理の味を、後からマヨネーズをドバドバかけられ殺される(これは結構ショックなことです)」などなど、物騒レベルはおそらくケンカ止まりのものです。
対義語である「殺す」も「生きていられない」というよりは「活用できない、有効に使えない」といった意味で使われています。
「生かす」と「活かす」はこんなに違う! 使い分けの色々🎶
しかし「常用漢字」の読み通りの「生かす」は、「生死に関わる生命ではない」場合に使っても決して間違いにはなりません。「生かす / 活かす」を使い分けて書いている人には少しむず痒さを与えてしまうかもしれませんが、本来ならすべて「生かす」でもいいのです(もしくは「いかす」とひらがなでも)。
ですが情緒豊かな言葉遣いが大好きな私たち日本人は「生死に関わるのではない、もっと躍動的な動きを感じる『いかす』」に、比喩的に「活」の文字を当てたのですね。
活動や活躍などに使われる「活」の文字は、確かにふさわしく感じます。
♦感性を活かしたモノづくり技術:感性工学/信州大学 上條 正義 先生【夢ナビTALK】
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=-D71O52oHHg&w=560&h=315]ではここで「ニュアンス部分」の使い分け、常用漢字ではない読み方をする「活かす」の注意点など含めまして「生かす」「活かす」の違いをまとめていってみましょう!
お花はどっち?
- 「生かす」の「生(け)花」なら、
→「華道」では「生け花」です。もともとは「生花(せいか)」。仏様に供える「生きている花」のことを指していました。「花をいける」=「花を生ける」です。 - 「活かす」の「活け花」なら、
→「生きているお花」というよりも「花のきれいさを活かす」といったニュアンスが濃くなります。
➡「活け花」もありですが「生け花」が一般的です。「活け花教室」などの表記はほとんど見かけません。「花をいける」=「花を活ける」だとちょっと違和感があります。
お魚はどっち?
- 「生かす」の「生け魚」
→ 生け簀に入れて生かしてある魚 - 「活かす」の「活き魚」
→「活け魚」というより「活魚(かつぎょ)」ですね。生きている魚のことです
➡「生け魚」「活け魚」どちらもあり。主に魚料理を出す料理屋の屋号には「活け魚」表記が多いです。「活け魚」の方が「新鮮な魚」といったイメージがあるからでしょうか。ですが実際には「生け簀に入れて調理されるまで生かしておく魚」……「け」を抜かせば「生魚(なまざかな / せいぎょ)」となり、あっという間にお刺身を想像させる文字にも変わる「生け魚」が、その魚の行く末、用途を考えると、どちらかと言えば正解。
人はどっち?
- 人を「生かす」だと、
→「その人そのもの」が活躍できるニュアンスです。「人を生かした経営」などと言われると、何となく優良企業のような気がしませんか? - 人を「活かす」だと、
→ その人を使って交渉する(人質とか)などのイメージを持つ言葉となります。
➡ ちょっとわかりにくい場合は「生かす」(か「いかす」)表記ですと絶対に間違いにはなりません。どちらを使ってもよさそうだけど、そのせいで余計に迷う、な時は「生かす」にしておきましょう。
発明家はどっち?
もう、ほとんど趣味が仕事のようなものです。- 「活かす」のは、
→ 趣味や才能、根気の良さ、諦めない粘り強い性格などなど - 「生かす」のは、
→ ちょっと生々しいですが、発明家の発明で「生かされる」のはご自分やご家族。発明品の売り上げなどが生きる糧です。
発明品、まったく売れないんですが……
発明は趣味、ということにして、どこかで働いてください!!- 「生」に関わる問題
→ 働かないとごはんが食べられません!「生死」に関わってきます!
「活」に関わる問題
→ 面接で延々と「自分の発明」について語ったのですか! そこ、我慢できませんか? とりあえず面接では発明の話は封印ですよ! それで不合格になるのです! 死活問題です!
➡ 命に直接かかわってくることは「生死に関わる」問題なのですが、生活に関わること、経済的なことなどは「死活問題」、「活」の文字を使って表されます。
公務員の履歴書、やる気をアピールしたい!
お気持ちはよくわかりますが、経験などは「生かし」てください。-
→ 公務員は国や自治体との雇用関係となります。絶対にダメ、ではありませんが「常用漢字」は日本政府が選定したもの。従っておきましょう。また「新聞社」などではそれぞれに表記法が決められています。「活かす = いかす」は通常使えない言葉となっていますので、履歴書などではやはり「生かす」と書いた方が安全です。
じゃぁ「活かす」って当て字なの?
「活」の文字を当ててはいますが「当て字」ではないのです。-
→「当て字」とは音だけは一致しているものの、当てた漢字の意味としては何の関係もないものを指します(「借字 / しゃくじ」とも言います)。「珈琲(コーヒー)」や「型録(カタログ)」などのことですね。ですが「活」には「生きる、生かす」という意味がちゃんとあるのです。当て字のように思いがちですが「活かす」は当て字ではありません。
じゃぁじゃぁ、どうしてそうなった?
「いかす」という言葉はもともと日本の言葉(和語)なのです。ひらがなです。和語とは本来、それにどのような漢字を当てるかを、使う時の意味やその場面ごとに、使い分けていい言葉なのですね。
「生き長らえさせる」よりももっと躍動的なニュアンスを持った「いかす」には、先ほど書きました「生きる、生かす」の意味も持ち、さらに「勢い良く動く / 生き生きしている」を表す漢字でもある「活(カツ)」こそ相応しい! だったのです。
ちょっと寄り道 ♪ 文豪たちの使い分け
完全な寄り道です! 興味のない方はスルーしていただいて全然OKなのでとりあえず書かせてください!!- 太宰治(火の鳥): 自分ひとりを生かすだけで精一杯……
→ 生命に関する「いかす」=「生かす」 - 夏目漱石(一夜): なんとか画を活かす工夫は……
(琴のそら音): これを活かすにはよほど……
→ 生命には関さない「いかす」=「活かす」
- 宮本百合子(映画女優の知性): 女優が自分のものを活かすか活かせないか……
(現実の道): 自分が生き、ひとを生かすために……
- 織田作之進(勝負師): 才能の乏しさは世相を生かす道を……
- 寺田寅彦(映画芸術):明暗を殺さずそれを生かすよう色彩を……
(変わった話):それを現代に活かす霊液でも……
➡混同しているパターン(2つとも意味合いは「生命に関わってはいない」ものなのですが、表記が違います)
文豪……統一感ゼロです。ということは、きっとそういうことなのです。
小説などは「微妙な雰囲気」等を大事に伝えたいもの。
常用漢字としての読み方はどうなのよ、などといったことは二の次なのですね。
俺は文豪じゃないの! 履歴書の「経験をいかす」ならどっちがいいか、教えて!!
わかってます!「経験そのもの」が生きている、ということを伝えたいのであれば「生かす」。「経験を活用して」何かを成し遂げようとしているのであれば「活かす」。つまり、どちらも不正解ではないのです。
また、積極性を前面に出すか、常用漢字としての読みの正確さを取るか、でも2つを使い分けることはできます。
ですが「ここで頑張って働きたいのです!」ということをアピールしたいのなら「活かす」(「活用して」などと言いかえるのもOK)。
新聞記者など、会社での規定がある場合や、公務員では「読み方としての正しさ」が求められる場合もありますが、やはり「自分を活用してほしい!」を伝えたいのであれば「常用漢字の読み方」にはなくとも「活かす」の方が圧倒的に優勢です。
「活かす」は公文書では認められていませんが、個人が使うことを禁じられているわけではありません。使ってもいい文字なのです(ですが、やはり「いかす」全般では「生かす」の方が多く使われています)。
終わりに……
「生かす」は上記のものの他に「人生」という意味合いも持ちます。「オレは、ずっとこの世界で生きてきたんだ!」と言われれば、もの凄い意気込みを感じます。決して自分の才能の一部を活用して生きてきたのではなく、全身全霊を捧げ「この世界がなくなったらオレもなくなる」的な壮絶さがあります。こういった場合「活きてきたんだ!」では何とも残念な感じになってしまいます。
日本人は感情を言葉に表します。
英語などでは表現できない言葉がたくさんあるのです。繊細で情緒豊かで……面倒くさいのです。
ですが母国語。細かな違いで使い分けられた言葉を使いこなせるようになれば、自分自身も繊細で情緒豊かな人間になれるような気が……してきませんでしょうか?
いかがでしたでしょう。
「面倒臭い!」より、ちょっとでも「日本語、やるじゃん!」と思っていただけたら嬉しいのですが……
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