形を整えてくれる外科と、形を作ってくれる外科と、きれいにしてくれる外科?
……っていうか、誰か、とりあえず救急車呼んでくれませんか!? この階段から落ちて、足折れたっぽいんですけど!
……大変な時に律儀にお答えいただき、ありがとうございます……
でも大丈夫、多分骨折はしていませんよ! 本当に折れていたら、そんな余裕はありません。猛烈に痛いです! だから安心してください。でも、救急車は呼びますよ!
「整形」と「形成」と「美容」の外科。
文字から判断すれば、確かに冒頭のような感じになりますが、そう言われても、実際にどんな治療をしてくれる科なのか、イマイチ違いがわかりません。形を整えてくれなくていいので、治してほしいです。
「美容外科」だけは、他の2つと違うんだろうなぁ、とは何となく思えますね。「美容」って言ってますし。
さてさて「整形外科」「形成外科」「美容外科」、3つの違いを解説いたします。
外科だから手術とかするんだろうけど、どこが一番傷跡をきれいに治してくれるの?
え?「美容外科」?「美容整形」じゃないの? まぁいいか、プチ整形って、保険使える?
何で似たようなのが3つもあるわけ!?
などなど、少しでも皆さまの疑問解消のお役に立てれば幸いです!
目次
「整形・形成・美容外科」の大きな違いと特徴はココ!
これら3つはどれも「外科」。椅子に座って診察をするイメージの強い「内科」に対し「外科」はかの有名な「ブラックジャック」のお仕事、つまり主に手術をすることで病気などに立ち向かってくれるお仕事です(法外な報酬は求めません)。「整形外科」「形成外科」「美容外科」もそれぞれに手術等での治療等をしてくれますが、大きな違いとなるは「何に対する手術(など)か」というところ。ここは3つの診療科の特徴でもあります。
主に対象とするものを見てみましょう。
- 整形外科: 身体の運動器官を構成する組織に関するもの
- 形成外科: 皮膚などの機能の障害、外見の変形など
- 美容外科: 容姿や容貌など、美意識に基づいた人体の見た目に関すること
もう少しわかりやすく具体的に言いますと、
- 整形外科: 骨・筋肉、関節、靱帯、脊髄、神経などが、病気やけがによって損なわれてしまった場合の治療(または、これらの部分が先天的であった場合も)、腰痛や肩こりの治療、リハビリテーション
- 形成外科: ガンなどの手術により切除された部分の再建(もう一度作りなおすこと)、やけど・ケガによってできた痣や傷跡・顔の歪みなどの治療
- 美容外科: 容姿・容貌をより美しくするための手術
うーん、さっきより少しはわかるような気もする、な程度でしょうか。
目標は「なるほど、納得!」。ではそこを目指し、続いてそれぞれの診療科について比較も交え見ていってみることにしましょう。
「整形外科」とは?「形成外科」とはココが違う!
冒頭の律儀だけれど、今とても痛い思いをしている方の行くべきところは「整形外科」。内蔵疾患での手術を施す「外科」に対し「整形外科」では運動機能に関することが、主な治療範囲となります。
骨折などは代表的な例ですね。上記の通り、骨の他、筋肉や靱帯(じんたい)、関節なども運動機能を支える上での大事な部分。これらがけがや病気によって損なわれた時に頼りになるのが「整形外科」です。
治療には手術(外科的療法)をする場合と、しないケースがあり、手術以外の治療は「保存療法」と呼ばれ、以下のような方法がとられています。
- 物理療法: 電機や超音波、温熱、電磁波等を使い、鎮痛、その部分の循環改善を目指します。
- 運動療法:「物理療法」と「運動療法」と併せて「理学療法」と呼ばれることもあります。効果的な運動をすることで、運動障害、姿勢、体力の改善などを目的としています。
- 骨折や脱臼時に患部を安静に保つための「ギプス固定」
- コルセットや、むち打ちの時のイメージの強い首に巻く固定具フィラデルフィアカラーなどを使用した「装具固定」
- 軽いねん挫などには包帯で固定の「包帯法」
- その他、薬物療法や注射、神経ブロック(痛みのもととなっている神経に局所麻酔薬を注入することで痛みを取り除く方法)
扱う症状としては主なものに、骨折、捻挫、打撲、腰痛、関節痛などが挙げられます。
さて、一方の「形成外科」。
「整形外科」とは違う一番の特徴は、治療の対象となるのが「皮膚などの機能障害や、目に見える(外形の)変形」であること。
かみ砕いて言えば、手術後の傷跡や、生まれつき持っている(先天性の)奇形を治療するという部分です。その範囲は特定の部分ではなく、身体の各部に及ぶため「特定の臓器を持たない診療科」などとも言われています。
やけどの治療や、治癒後に残ってしまった跡(瘢痕 / はんこん)、ケガによる顔の歪みや痣、または先天性の口唇口裂(こうしんこうがいれつ)などの形態異常、さらにはガンなどの手術(の切除)で失った皮膚や組織を作り直したりもします。
対象は「目に見える」、つまり皮膚から身体の浅い部分となります。体表面ですね。
目に見えるところの先天・後天的な異常を整え、また失ったものを作るのが「形成外科」の主なお仕事です。
身体各所を治療範囲とする形成外科ですが、主に扱われるのは以下の4つとなっています。
- 1.先天形態異常: 耳の形がおかしい「埋没耳」や「立ち耳」、唇の一部が裂けている「口唇口蓋裂」、瞼が下がっていて開けづらい「先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)」などの生まれつきの変形に対し手術などでの治療を行う
- 2.外傷: ケガや骨折、打撲、火傷などの治療やその瘢痕、または挫創(皮下組織の損傷)などに対する治療
- 3.腫瘍の術後、切除によって失った組織などの再建
- 4.美容外科
??「美容外科」が入っています!
「美容整形」っていうんだから、どっちかって言ったら「整形外科」の仲間だと思ってたのに!!
はい。ちょっとびっくりです。
実は「形成外科」には「再建外科」と「美容外科」と呼ばれる2つの分野があるのです。
ええぇ~~! すっごい紛らわしいんですけど~~!
はい。非常に紛らわしいのです!
ではここでちょっとだけ寄り道。「美容外科について」に行く前に、3つの生い立ちとその関係をサラッとご紹介です。
彼らの生い立ちと関係性
-
◎整形外科
- かつての整形外科の治療範囲には「痣やケガ」、または「先天性の異常」に関するものも多く含まれていました。
→ そこ(身体の表面の器官、組織の機能異常を伴う形状異常や、ケガ等による傷跡などの変形)に関しては専門の診療科を作ろう! という働きがあり「身体表面に対する専門の治療」を目的とした「形成外科学」という学問上の分野が確立されます。
→ でも「形成外科医」を名乗り看板を掲げることはまだ不可だったため、標榜科名(広告などに表示できる診療科の名称)は「整形外科」のまま。
◎形成外科 - 「基本診療科」として認めらるようになったのは1975年。ですが、武器の発達などによる戦傷者の救済のため、すでに外科の領域として、その分野の治療法等は存在していました。独立した診療科として確立されていなかっただけです。
→ 容貌に対するコンプレックス等のため、歪んでしまう心は、なぜ体の歪み同様に扱われない? との考えのもと「形成外科」で使用される技術を応用させた「美容外科」が「形成外科の一分野」として、1978年、診療科として認可を受け誕生します。
◎「美容整形」ってじゃあ何?
- 「形成外科」「美容外科」の名称が標榜科として認められていない時期に『形を整える』の意味で用いられた言葉です。
→ これまでの流れでいくと、どちらかといえば「美容形成」の方が正しいような気もしますが、「美容整形」「美容形成」共に正式な診療科の呼び名としては存在しません。「美容外科」もしくは「美容外科・形成外科」とするのが本来であれば正解です。
♦[行徳総合病院]形成外科ってどんな科 – 飯村医師
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=faLags0hzyE&w=560&h=315]さてさて続いては、その大もとの「形成外科」と、そこから分かれた「美容外科」、どこがどの程度違っているのかについていってみましょう。
「美容外科」ってどんなとこ?「形成外科」との違いはココ!
まず、他の2つとの一番の違いとして「ほとんどの場合、健康保険が適用されない」ということが挙げられます。!! 何で? 同じ「○○外科」なのに?
健康保険は「治療の必要があるもの」についてのみ適用されるからです。
「美容外科」が扱う分野は「日常生活に特別な支障のないもの」に対して。つまり「治療目的」ではなく「美への追及」を目的としているからなのですね。
具体的な例で見てみますと、先ほど「形成外科」の主な治療対象にもあった「眼瞼下垂症」。 これには先天性的なものの他に、コンタクトレンズの使用等により後天的に出てくるケースもあるのですが、どちらにせよ、瞼が下垂したままとなり(重度であれば)眼が開けづらくなる「瞼の疾患」です。
前が見えにくく、日常生活を送るのにも支障が出てきます。よく見ようと眉をひそめたりすることで、額、肩、首などの筋肉も酷使するため、つらい凝りの症状も現れてきます。
一方、同じ「瞼」でも「美容外科」が扱うのは「一重瞼を二重瞼に変えてほしい」などに対して。
なぜ二重瞼にしてほしいのか?
今以上に美しくなりたいからですね。
毎日の生活が滞るほどの不具合が生じているわけではないのです。
ですが、例えばそのこと(一重瞼であること)が原因で抱いたコンプレックスによって、人前に出たくなくなったり消極的な性格になってしまうこともまた、実際にはよくあることなのです。
さて「眼瞼下垂」です。
この症状の改善を目指し治療を施すと、結果的に術前よりぱっちりとした瞼ができあがることとなります。手術の際、場合によっては二重瞼を作ってくれることもあります。
一方の「二重瞼になるため」の手術。こちらは初めからぱっちりとした目元になるのが目的ですね。
術後の両者の目元は、どちらも同じく「ぱっちり」なのですが……
「眼瞼下垂」は「形成外科」の範疇。瞼が開きにくいための見づらさは、日常生活に支障をきたす、治療すべき症状だからです。治療目的なので保険も適用です(軽度の場合はそれほど支障がないとされるため適用外となることも)。
ですが一重を二重に、といったような「眼瞼形成術」、つまり目に対する美容目的での形成は「美容外科」の分野。目に限らず、鼻や口などの形、顔の輪郭を変える、または豊胸、しわ取り、脂肪吸引など、外見上機能上の問題に特別な問題がない(ご本人のみメンタル面の悩みからその必要性を感じている)部分を、より美しくするための手術には保険は適用されません(プチ整形でもです)。
これは大もととなっている「形成外科」の「再建外科」と「美容外科」の2分野の違いとも言えます。
- 美容外科:「形成外科」の治療範囲の中でも「美容目的」の分野
→「正常な状態」を、より美しい状態へ(「治療目的」ではないため保険適用外) - 再建外科: それ以外の分野
→ 体表面の形態に関しての「正常ではない状態を」治療(なのでほとんどの場合、保険の適用範囲)
このように分かれており、この2分野を統括した診療科を指し「形成外科」、となります。
上記の保険の問題などから、大きな病院の「形成外科」では「美容外科」の分野を取り扱っていない場合も多いようです。
3つの「外科」の違いはコレだ!!
バラバラだった3つの外科の関係が、何となくでも掴めてきましたでしょうか。「美容整形」の言葉から、同じ系統の診療科かと思っていた「整形外科」と「美容外科」、実は、全く別の診療内容でしたね。
それぞれの誕生事情からは、
★整形外科 > 形成外科 > 美容外科
そして、
★再建外科 + 美容外科 = 形成外科
です。
では最後にもう一度、3つのアレコレについて、まとめてみましょう!
3つの診療科、主な対象としているのは?
- 整形外科: 先天的・後天的な運動器官(身体の運動)の機能障害
→ 骨や関節、筋肉、神経など。 - 形成外科(再建外科): 皮膚や身体の体表面における、先天的、後天的な形態の異常
→ 身体各部に及びます。 - 形成外科(美容外科): 身体各部の表面の器官、組織の形状
→(様々ですが)目、鼻、口、輪郭などの形状を変える、豊胸、しわ取り、脂肪吸引などなど。
傷跡が一番目立たないのは?
- 美容外科 > 形成外科 > 整形外科
→ 各科の「目的の違い」ですね。同じ傷を縫うにしても、その針数が違ってきたりします。
「美容外科」では保険は使えませんが、その分手術の方法の選択肢や術後の傷跡などに関してのメリットは多くあります。患部の治療を優先するのか、術後の審美感を重視するか、も診療科を選ぶ上での大事なポイントとなってきます。
それぞれの目指すものは?
- 整形外科: 骨折や捻挫、脱臼、椎間板ヘルニアや関節リウマチ、腰痛……etcの、治療、予防、矯正、またはリハビリテーションなどで、身体の運動能力(機能)を治療します!
- 形成外科: 先天形態異常、外傷による傷跡や骨折などによる傷跡や変形、やけどの跡など、できるだけ正常な状態へと近づけます!
- 美容外科: 外見上機能上、特に問題はない(正常の)状態から、さらなる美を目指し施術等を施します!
終わりに……
この3つの診療科さえあれば、もう大抵のことは心配ないような気がしてきました。階段から落ちたくらいでは、大騒ぎしなくても大丈夫なような……痛いですが。内蔵系の疾患にもそれぞれの「外科」が何とかしてくれそうですし、お腹が痛かったり、筋肉痛になりそうなくらい咳が酷くても「内科」のお医者さんがいます!
素晴らしい!
治療ではなく「美」に対することでも、使われている技術は「形成外科」からの応用です。それだけでも安心感が……ただし、各医院により、その手法は様々なため、事前のチェックはお忘れなく。「美容外科」はメンタル面に対する治療、とも言えそうです。
ケガや病気はしないに越したことはありませんが、いざという時、どこに行けばいいのか、どのようなことを専門としている診療科なのか、などなど「転ばぬ先の豆知識」程度にでもお役に立てていましたら嬉しいです!
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