「よっ! 大統領!!」
ちょっと古いですが、これは役者さんなどを褒める際の親しみを込めた呼びかけ。
「よっ! 首相!」「よっ! 総理大臣!」
……何となく怒られそう……
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でも「首相」と「総理大臣」って、同じ人のことでしょ? どうして2つも呼び方があるの?
「大統領」って、日本以外での「首相」とか「総理大臣」の別名?
「大統領」も「首相」も両方いる国もあるけど、これって、どうなってるの?
こんなケムに巻くような曖昧な名前付けおって……やっぱり政治家はイマイチ信用できん!!
……政治家がイマイチ信用できない……はさておき、名前が違うのはとりあえずケムとは関係ありません。ちゃんと理由があって分かれた名称なのです。
ですが確かに「首相・大統領」が混じり合った「首脳会談」などを見ると「?」が徐々に募ってきます。
何を話し合っているか、より、そっちが気になって仕方がない……
ニュースなどで「総理」と言われたり「首相」と呼ばれたりする日本の「安倍さん(今現在は)」。実はどっちが正しい呼び方なの? 等含めまして、3つの違いを分かりやすく解説いたします。
なるほど、今度、ぜひゆっくり国会中継見てみよう! とはならないかもしれませんが、皆さまのモヤモヤが少しでも薄れましたら幸いです!
目次
「総理大臣・首相・大統領」の違いはココ!
ではまずは日本。「大統領」はいません。代わりに「総理大臣」や「首相」と呼ばれる人はいますね。
この違いはなし。呼び方の問題です。
「総理大臣」とは「内閣総理大臣」の略。
ただし、諸外国では「内閣総理大臣」との呼び名はないため、国際的な呼称でもある「首相」を通称としているのですね。この方が、何かとわかりやすいからです。
国際的な意味での「首相(日本も含めて)」とは「その国の行政の責任者」といった位置にいます。
では「大統領」とは?
こちらは「行政」だけでなく「立法・司法」も併せた三権全てにおいてもトップである「その国の代表」といった存在。
ただし「大統領」のみの国は「アメリカ」以外ないため、大抵は「首相」も同時に存在しています。
そして、対外的、あるいは形式上のトップであることには変わりはなくとも、両方がいる国の全てにおいて「大統領」が実質的な権力を持つか、というと、そうとも言えないのです。
ですが、大まかに言えば、
- 総理大臣: 日本特有の「首相」の呼び名
- 首相: その国の行政のトップ
- 大統領: その国のトップ
まずはこちらを押さえておいていただき、続いて「総理大臣」と「首相」の違いを見ていってみましょう。
「総理大臣」とは?「首相」とは何が違う?
日本では同じ意味で使われる「総理大臣」と「首相」。国際的な場面では「首相」とされるのに、なぜ「総理大臣」の呼称が日本では使われ続けるのか?
実は「日本国憲法」で正式名称とされているのは「内閣総理大臣」の方なのです。「首相」とは、あくまで諸外国に合わせた通称。
さて、では「内閣総理大臣」とは何か?
どのような人を指しているのか。そもそも、の部分ですね。
少し回りくどいのですが、まずは「三権分立」からサラッといきます。
日本は法治国家。法律に基づいた政治が行われる国です。
そして、その統治権(国をまとめて治める権力)を3つの区分に分け、権力の集中・濫用を防ごうとする統治上の原則が「三権分立」です。
- 司法: 既定の法律に基づいた民事・刑事裁判を行い、揉め事の一切を解決する作用あり
- 立法: 法律を作ること(特に国会が制定)
- 行政: 法に基づいて国を治めること
つまり「内閣総理大臣」とは「行政権担当機関のトップ」なのですね。
ちなみに「司法」のトップは「最高裁判所長」、「立法」のトップは「衆議院議長」。これらと「内閣総理大臣(行政)」で、権力を分かちつつ、国を治めているのです。
日本は国民に権利のある「国民主権」の国。
ですので、その国民が「国会議員」を選挙で選び、その「国会議員」が指名し「天皇」に任命されるのが「内閣総理大臣」です(ただし、議員数の多い政党のトップが「総理」に選ばれることとなるため、実際には「立法」と「行政」の境が曖昧に……というのが実情でもあるのです)。
ここまでが日本の「総理大臣」と「首相」の違い。つまり、2つの呼称に分かれている理由ですね。
では諸外国の「首相」とは、どのような位置づけにあるのか?
「大統領」との比較も交えつつ、見ていってみましょう!
「首相」とは?「大統領」とはココが違う!
まずは主要国首脳会議等の参加国「G8(1997年にロシアが加わり8国に。2014年以降ロシアは参加資格を停止され、現在ではまたG7に戻っていますが)」での「首相・大統領」事情を見てみましょう。- 首相のみいる国: 日本・イギリス・カナダ
- 大統領のみ: アメリカ
- 両方がいる国: フランス・ドイツ・イタリア・ロシア
かえって謎が深まってしまいました……
では、それぞれの国の特徴から攻めてみます。その国のトップとされているのは誰か、の角度から見てみましょう。
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◎首相のみいる国のトップ
- 日本: 天皇
- イギリス: イギリス連邦王国女王
- カナダ: イギリス連邦王国女王(カナダはイギリス連邦加盟国のため。ただし女王の代理としての職務は「総督」が行う) ◎大統領のみいる国のトップ
- アメリカ: 大統領 ◎両方が存在している国のトップ
- フランス / ドイツ / イタリア / ロシア: 大統領
- 日本: 首相
- イギリス: 首相
- カナダ: 首相
- アメリカ: 大統領
- フランス: 大統領 →「大統領」は国民の直接選挙で選ばれ、「首相」を任命します。広く実質的な権限を持つのは「大統領」、政策実行の担当が「首相」
- ドイツ: 首相 →「大統領」「首相」ともに連邦議会により選出。実質的な権限を持つのは「首相」。「大統領」は形式的な権限が主に
- イタリア: 首相 → 間接選挙(有権者がます選挙委員を選び、その委員が改めて代表者を選ぶ選挙制度)で選ばれた「大統領」が「首相」を任命。でも、実質的権限は「首相」に
- ロシア: 大統領 → 国民の直接選挙により選ばれた「大統領」が「首相」を任命。外交・防衛中心の実質的な権限を持つのは「大統領」。「首相」は国内の細々した政策を担当します。
「首脳」とは組織内での最高権力者のこと。「首脳会議」とは政府の最高責任者が話し合う場です。
ですのでトップであっても「天皇」や「女王」ではなく、国により「大統領」「首相」が入り乱れることになるのですね。
うーん。もう、こうなってくると、勝手にやっちゃって……な気分……
さらに「大統領」のいる国といない国があるのはなぜ?
日本にはなぜ「大統領」いないのか?
「天皇」がいるからです。
アメリカは除きますが(後に触れます)、その他諸国では「元々の王制(日本での天皇制のようなもの。ただし、その権限は圧倒的に異なる)を廃止し、その代わりに生まれたのが大統領制」なのです。
これはあくまでたとえですが、日本の「天皇制」を廃止し、その代わりを務められる役割を持たせようとするのなら、行政権のみを担当する「総理大臣」だけではとても無理なので、新たに「大統領(国のリーダー)」となるべく人を選出、といった形になるのですね。
さてさて、ここでもう少しだけわかりやすく説明するために「元首」なるものについてのお話を。
「元首」……ニュー単語……面倒くさそう……
はい。ニュー単語です……すみません。ですがここ、ポイントといいますか、むしろわかりやすくなるアイテム単語なのです。
★スッキリアイテム「元首」とは?
簡単にいえば「国を代表する資格を持った長」。国際法上では「外国に対して国家を代表する人」です。ここでさらなるポイントとなってくるのが「君主制」か、それ以外か、なのです。
「君主」とは「世襲による国家の統治者」。つまり代々受け継がれていく王や皇帝などが統治者となるシステムが「君主制」。日本でいえば「天皇陛下」が君主に当たります(ここは意見の分かれるところでもあります。現在の憲法では「日本の元首」についての規定がないのですが、ここではわかりやすく説明するため、この方向で書いています。反対意見もあるかと思いますが、あくまで説明の上での便宜的な設定、ということで、どうぞご容赦ください)。
「天皇陛下」は日本での君主ではありますが、憲法上「日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」とされているため、政治に直接は関わりません。イギリスの「女王」も同じく、政治には関与しません。
これは「立憲君主制」といい、君主制ではあるものの、その君主の権力が憲法により規制されているため。
ですので実際の外交関係の処理等の機能は日本では内閣にあり、その点だけ見れば「元首 = 内閣(もしくは内閣総理大臣)」とも言えるのですが、その「内閣総理大臣」を任命するのは「天皇」。また、その他「国の代表」に足る権限も持つため、諸外国も天皇を「元首」と捉えています。
歴史もすごい。西暦より長く続く2600年もの歴史です。権威といったレベルでは桁違いです。
さらに海外では「emperor」、皇帝と訳されますね。
こういったことからも君主がいる国では「君主 = 元首」となります。
それに対するのが「共和制」というシステム。
「主権者である国民が代表者や国家元首を選出」できる制度の国です。これも例えですが、天皇的な人物を国民が選べる、といったもの。
そしてそこで選出されるのが「大統領」。スケールが凄まじいです。
もともと君主がいた国では、国王が統治する君主制(王制)を廃止し、上記のようなシステムに塗り替えたのですね。その方が、国民のためになる、と判断されたからです。
ですので、共和制国家では「大統領 = 元首」。「首相」は「行政の責任者」的立場を取ります。
そしてその国々の中でも「元首ではあるものの実権は持たない象徴的な大統領」と「元首であり権限を持つ、対外的にも国のトップである大統領」とに分かれています。前者の場合には「首相」が実質的な権限を持つわけです。
そして「アメリカ合衆国」の大統領です。
アメリカには「首相」がいませんが「天皇・女王」のような君主も存在しません。
もともとヨーロッパからの移民が作った国がアメリカです。初めからいないのですね。
そこで作られたのが「大統領」。この「president(プレジデント)」の名称は、その時に生まれたもの。元祖アメリカですね。アメリカの初代大統領「ジョージ・ワシントン」から始まり、諸外国もそれに倣い同じく「プレジデント(大統領)」の呼称が使われているのです。
ですので「大統領」は「元首」でもあり「首相」でもあるのです。つまりアメリカの大統領は国のトップでもあり、行政のトップでもあるのですね。他の国とはだいぶ違います。
とはいうものの、何もかもができるわけではなく、強力な力を持つのは外部に対してのみ。内政に関してはあまり力を発揮できません。アメリカの大統領は「連邦議会の議員」とは別に選ばれているため、日本の首相のように多数派の政党がその後ろについているわけでもないのです。
議会とは独立した機関となるため、法律案や予算案を提出することはできず、意見が対立する場合でも(拒否権はあり)、両議院で再可決されれば法律は成立。大統領の署名さえ不要、ということもあるのです。
何と言いますか……うまくできていますね。
このように国により様々な制度が採られていますが、形式的には「大統領 > 首相」。ですが国の成り立ちや仕組みにより実質的な権限等については画一的ではないのです。
「総理大臣・首相・大統領」の違いアレコレ♪
♦【60秒でわかる】大統領と首相の違い
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=RlVmaeGiWKE&w=560&h=315]ポイントは「国家元首」、そして「君主制」です。
もともと君主制であった国が、その制度を廃止し、代わりにつくったのが「大統領制」。ですので「大統領 = 元首」。
現在でも形式上は君主制が敷かれている国では「君主(日本では天皇・イギリスでは女王)= 元首」。
そして、「大統領制」を採っているのは「共和制国家」、形式上の「君主制」の国では立憲君主制となっており、さらに議院内閣制でもあるため「首相(総理大臣)」が行政権の責任者を務める、といった違いです。
さらに「大統領」の他に「首相」を置き、行政を担当してもらう場合でも、国の仕組みや成り立ちにより、実質的な権限をどちらが持つかは様々、ですね。
うーん。サラッと書きましたが、実際には結構違いって分かりにくい……
ではここでもう一度、ポイントごとに違いをまとめていってみましょう。
それぞれ、どんな人?
- 総理大臣: 内閣総理大臣(日本特有の呼称であり、日本国憲法上の正式名称)の略
→ 「行政権担当」の最高合議機関である「内閣」の首長。日本の行政のトップ - 首相: その国の行政府のトップ(日本では「内閣総理大臣」の通称)
→「立憲君主制」の国では実質トップ。「共和制国家」では「行政担当」の役割 - 大統領: その国の(形式的には)トップ。対外的代表権を持つ
→「共和制国家」のトップ(アメリカの大統領は唯一「行政権」も持つ)
「立憲君主制」「共和制国家」って何のこと?
- 立憲君主制: 君主の権力が憲法によって規制されている君主制のこと
- 共和制国家: 国家の主権が君主ではなく、国民にあり、君主の代わりに国家元首として「大統領」を置く国家
「君主」って何?
世襲(地位や財産、職業等が代々受け継がれること)による国家の統治者のこと。日本でいえば「天皇陛下」。イギリスでは「エリザベス女王」のような「王・天子・皇帝等」のことを指します。
「君主制」では君主が国を治めます。ですので「立憲君主制」のようにその権力を規制した場合には「首相」が「行政権」を担当し、他「立法」「司法」に分かれ、権力を集中させないようにしながら国を治めていきます。
また、それ自体を廃止した国では、代わりに「大統領」を国民が選び、君主の代わりの「国家元首」として国の代表となってもらうのです。
「元首」……?
簡単に言えば「国を代表する人」。国際法上では「外国に対して国家を代表する人」。 → ですので「君主国」では「君主 = 元首」。「共和国」では「大統領(またはその国の最高機関の長)= 元首」を指します。サミット(首脳会談)で話し合ってるのは「元首」?「君主」?
- 共和国:「元首(大統領)」の場合と「首相(行政担当)」の場合、または2人が同席する場合もあります(フランス・ドイツ・イタリア・ロシア)。
→ 形式的には「大統領」が国のトップですが、実質的な権力をどちらが握っているかは、それぞれの国により違ってきます。 → アメリカのみ「大統領」オンリーなので、「元首(大統領)」が参加 - 君主制(立憲君主制)の国(イギリス・日本・カナダ):「首相」
→「君主」は象徴的存在。条約を結んだり外交関係の処理には「内閣」が機能しています。ですので日本では「君主(= 元首 = 天皇)」ではなく、その内閣の長「内閣総理大臣(= 通称首相 = 行政権のトップ)」の参加となります。イギリス・カナダでも同じく「首相」が参加。
偉い順を教えて!
偉い順……あくまで形式的な部分もありますし、実際の権力と異なることもありますが、一応以下の通りとされています。皇帝 → 法王(ほとんど変わらない、とされることも) → 王 → 大統領 → 首相
(ただし「大統領」のいる国の「首相」といない国の「首相」では権限等は「いない国の首相 > いる国の首相」のようになります)
終わりに……
国により様々……君主や大統領がいたりいなかったり……世界中の国を比較するのは不可能だったため、今回は「主要8か国」といわれる国々にご登場いただきましたが「大統領」や「首相」だけでなく、そのトップの呼称が「首長」「委員長」「国王」などなど、その国ごとに体制も違います。ですが、それはその国の歴史や仕組みによる違いなのですね。意味のある違いなのです。
いかがでしたでしょう。
「総理大臣・首相・大統領」の違いが、何となくでも掴めていただけましたでしょうか。
王制を廃止し「大統領制」を採るとかって、そういえば昔世界史の授業で習ったような気も……
いいんです! 人間には忘れることも必要……のはず。
皆さまの「なるほど!」に少しでも近づくお手伝いとなれていましたら嬉しいです!
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