「意見書」と「要望書」は何となくイメージできるのだが…… はて、「請願書」「陳情書」とは?
── 実はこの4つ、言葉は確かに難しいのですが、内容的にはどれも、似たようなことをいっているのです。
だからこそややこしいのですが……
「請願書」「陳情書」「意見書」「要望書」、4つのちょっとわかりにくい言葉の示すものについて、わかりやすく解説いたします。
皆さまのモヤモヤが多少なりとも薄れましたら幸いです。
ではでは、さっそく見ていきましょう。
目次
「請願書」「陳情書」「意見書」「要望書」の大きな違いはココ!
まずは「書」を抜いた「請願」「陳情」「意見」「要望」について。辞書的な意味は以下のようになります。
- 請願: 自分の希望が叶うよう願い出ること
- 陳情: 目上の人に実情を述べること
- 意見: 物事や判断に対しての考え。考えを述べ、相手の過ちを諫めること
- 要望: 他に向けてある物事の現実を強く望むこと
- 請願: 国民が国または地方公共団体に対し、文書で希望を申し出ること =「請願書」
- 陳情: 特に官公庁や政治家に事情を述べて善処を求めること =「陳情書」
また「請願書」は「基本的人権」の一つでもある「請願権」として、日本国憲法で認められている権利。
ここは大きな違いのポイントですね。
上記4つはどれも、自分の声を相手に伝えるための文書。
「意見書」だけは、他の3つと、何となく趣の違う感ありますが、他はどれも、
「何らかのお願い」
的文書ですね。
ですが、やっぱりちょっとずつ違う。
その「声」がどのような性質のものか、誰に対して述べたものなのか、また、どのような手続きを踏むか、などの細かい違いも出てきます。
続いて、それぞれについてです。
少しだけ詳しく見ていきましょう。
「請願書」とは?「陳情書」との違いはこれ!
まずは「請願書」。こちらを提出するための手続きは「請願法」によるものとなります。
前述の通り、
「国民が国または地方公共団体に対し、文書で希望を申し出ることができる」
というのは、憲法(16条)で保証されている権利です。
そしてこれに基づき、国会法・地方自治法・各議会(議院)での詳細な規則・基準、が設けられているのですが、
「請願書提出には1人以上の議員の紹介を必要とする」
の部分は一緒。
どこに提出する場合でも「請願書」には「紹介議員」は必須です。
「申し出ることのできる希望」とは具体的には、
- 損害の救済
- 公務員の罷免(ひめん / 辞めさせること)
- 法律、命令、規則の制定・改廃
- その他の事項
政治に対する要望や意見・苦情など、直接国会や地方議会に「国民の声」「住民の声」として届けることができる制度ですね。
これは頼もしい。
お住まいの地域の市(区・町・村など)議会に宛て提出することもできますし、衆・参議院の議長宛てとすることも可能です。
市政に対するものなのか、国政に直接関係する要望なのか、その内容によって、提出先は変わってくることになります。
さて、提出後の流れを軽く追ってみましょう(衆・参議院に提出されたものの場合)。
-
◎請願書の提出・受理
- 議長: 請願書の趣旨(内容の中心となる考えや目的)、請願者の住所・氏名・紹介議員などを書かれた「請願文書表」を各議員に配布
- 担当する委員会(所轄常任委員会など): 請願についての審査を行う
→「採択(選んで採用すること)」「不採択」を決定
(※「常任委員会」: 国会法で定められた常設の委員会のこと。議員の皆さんは、いずれかの常任委員になることが決められています) - 再び「議長」: 委員会からの報告を本会議にかける
→ 採決の結果「採択」「不採択」を決定
→ 内閣での措置が適当とされた「請願」があれば内閣に送付 - 内閣: その「請願」に対しての処理の経過を、大体毎年2回程度、衆・参議院(それぞれ提出のあった方)へ報告
△「採択」すべき請願について: さらに内閣に送付するか否かを決定
→「議長」に報告(議長 → 担当委員会 → 議長)
△「内閣」に送付されない「採択された請願」: 各執行機関に送付。現実に向けての努力を要請
ちなみに地方議会に宛てた「請願書」では以下の通り。
- 受理後、定例会で全議員に配布
- 所轄の委員会が審査
- 審査結果を議長に提出
- 本会議で「採択」「不採択」を決定
→「採択された請願」: 市長やその他執行機関に送付 - その後の経過、結果の報告を請求でき、ともに現実に向けての努力を進める
うーん。
どちらも案外回りくどい。
行ったり来たりしている気がします……
でも、請願書を提出しなければ永遠にこちらの声は届かない……
要望や苦情などのあった場合には、確かにこれは有効な手段でもあるわけです。
では一方の「陳情書」ではどうか。
「請願書」との違いは「紹介議員の有無」。
基本的人権のひとつとして認められている「請願」の権利に対し「陳情書」には、それほど明確な法律上のルールは設けられていません。
ですので、各議会でそれぞれに取り扱いが違ってくる場合もあるのですが、そのものの性質や形式などはほとんど同じ。
「請願書」と同等の扱い、とされています。
ただし、陳情内容によっては、
「委員会での審査・市長(または区長など)からの回答を求めるに至らない」
とされる場合もあります。
法令や秩序や道徳的に鑑みて、あまりにもそぐわない内容のものなどですね。
何でもかんでも「陳情」すれば受理される、というわけではないのです。
また前述の通り「各議会でそれぞれに取り扱いが違ってくる」こともあるため、
「委員会等での審査は行わない」
としている市もあります。
ここも注意が必要。
そして「陳情書」の中には、行政に対するダイレクトな意見・要望、というよりも、議会に対し、
「関係行政庁に意見書を提出してほしい」
といった内容のものも存在します。
「~の意見書提出を求める陳情書」
とされるものです。
行政に対する意見・要望の「陳情書」は、
「○○の廃止を求める陳情書」
のような感じ。
ちょっと性質が変わってきます。
── えっと……それって、求めてるのは「陳情書」?「意見書」?
いやいや、そもそも「意見書」ってなんだ?
ではでは、続いてその「意見書」。
「要望書」との違いも含め、見ていきましょう。
「意見書」とは?「要望書」とはココが違う!
さて「意見書」です。こちらは、
「物事や判断に対しての考えを述べた文書」
のこと。
地方自治法第99条により、
「地方公共団体の議会は、公益に関する事件につき『意見書』を国会または関係行政庁に提出することができる」
と規定されています。
もう少しかみ砕いて言いますと、
「ある議員が発案した問題について議会にかけ、その結果を議長の名前で政府や国会等、関係機関に提出」
です。
議会全体の意見としてまとめた文書のことを指します。
── かみ砕いたのですが、いまいちわかりにくいので、こちらも流れを追いながら見ていきましょう。
例えば○○市の「捨て猫ゼロを目指す会」から、
「野良猫の去勢・不妊手術を徹底するために国からの助成金が欲しい」
といった内容の「陳情書」が○○市議会に提出されたとします。
- 受理された「陳情書」: 議場で配布、情報公開のコーナーなどで、閲覧可能な状態に。
→ 発案者(議員)により問題とされ議会にかけられる。 - 議会:「採択」「不採択」を決定
→「採択」に決定
→ 政府や国会に議会の考えとして「意見書」を提出
宛先は都道府県知事、もしくは内閣総理大臣、または関係機関等。
(※「定例会」: 定例議会のこと。定期的に開催される地方議会)
ただし、この「意見書」による政府・国会側に対しての拘束力はなし。
ですが、このような流れから、簡単に無視されることもないことがおわかりいただけるかと思います。
まさに「住民の声」、そして「住民の代表としての議会の声」として提出されるものだからです。
そこで「~の意見書提出を求める陳情書」なのですね。
住民の声を地方議会全体の意見として、県や国に働きかけて欲しい。
こちらについては、
- 常任委員会で審査
→ その審査結果を本会議(提出されたのが衆議院なら『衆議院本会議』、参議院なら『参議院本会議』)に報告
これが地方自治法第99条により規定されている「意見書」です。
そしてもう一つ。
意見書には「労働基準法90条」で提出の義務付けられているものもあります。
就業規則を作成したり変更した場合です(労働者が常時10人以下の会社は別)。
このような際には労働基準監督署へ、その内容を届け出る必要があるのですが、
- 労働者の過半数で組織する労働組合のある場合: その労働組合での過半数
- 上記組合がない場合: 労働者の過半数 を代表する者の意見を聞かなければならない。
そして、その意見を記した書面を添付して使用者側(会社)が労働基準監督署へ提出。
こうすることにより、賃金や労働条件についての、
「いつの間にか変わってないか? 聞いてないんだけど!!」
といった不満等をなくすためです。
上記労働者サイドの代表者は、その内容に異議のない場合には「異議なし」、意見がある場合は、それについて明記。
こちらに関しましては、
「就業規則の作成・変更について労働者側から意見を聞いた」
という証明となります。
つまり「意見書」とは、
-
「地方公共団体の議会が地方自治法第99条の規定に基づき国会に対し提出のできる文書」
「労働基準法90条で規定された『就業規則作成・変更』の際に、労働基準監督署に添付する書類」
これに対し「請願書」「陳情書」は、直接国民が国、または地方公共団体の機関に対して希望や要望などを述べることのできるもの(「採択」「不採択」は別として)。
では「要望書」はどうか?
こちらも法的な拘束力のあるものではありません。
「要望書 = 陳情書」とされている場合も多いです。
憲法で定められている権利が「請願権」。
地方自治法で規定されているのが、地方議会における「意見書」の提出です。
(※「請願書」と呼応する形での「意見書」、ということで、「労働基準法」で規定されたものは、ここではおいておきます)
「要望書(「陳情書」)」は、どちらかといいますと、便宜上の呼び名、といった感じのもの。
きっちりとしたルールのあるものではありません。
ある特定の団体に対し「こうして欲しい」という希望・要望を記した文書が「要望書」。
こちらは辞書的な意味「他に向けてある物事の現実を強く望むこと」の通り。
わかりやすいです。
書き方にも特別な形式はなく、
「団体名・代表者・住所・電話番号・要望事項」
が明記されていればOK。
これが行政機関へ提出する際の「要望書」となります。
提出したからといって、必ず聞き届けてもらえるものではなく、あくまで「検討をお願いします」といった位置づけの文書となりますが、案外「要望内容」というのは各所属機関にとっての「盲点」であることも多いのです。
実際に要望書を提出したことにより色々な問題が改善されていることも事実。
また、行政機関にだけでなく、実に様々な場面で登場してくるものです。
なぜなら「要望」とは、政治に関係ないことでもいくらでも出てくるものだから。
では、続きまして、
行政機関以外への意見・要望・希望・苦情などなどを伝える際には、タイトルの4つの「○○書」のうち、どれを提出すればいいのか?
どのように書くとより伝わりやすいのか?
について見ていきましょう。
会社や組織の運営について、意見や要望を伝えるには?
身近なことほど、実は切実。学校に対する不満、会社の幹部の運営方法に対しての意見など、毎日の生活に直結していることに対して、改善して欲しいことをいかに相手に的確に伝えることができるか、も非常に大事。
書き方ひとつで、受け取られ方に大きな違いが出てくる場合もありますので、ここのポイントはしっかり押さえておきましょう。
まずは何を伝えるための文書なのか。
- 自分の考えを伝えたいのか
- 要望を聞き入れて欲しいのか
「請願書」は本来「自分の希望が叶うよう願い出るための文書」を意味するもの。
なのですが、一般的には前述の通り「国民が国や地方公共団体の機関に対して」といった側面の強いものとなります。
同じく「陳情書」。
こちらは「紹介議員」の必要ない「請願書」のようなもの。
辞書的な意味は「目上の人に実情を述べること」ですが、その性質自体は「請願書」とほとんど変わりません。
そして「要望書」。
行政機関に提出するものでも「要望書(= 陳情書)」とされることが多いことから、これら3つはほぼ同じ。
つまり、
「請願書・陳情書・要望書」VS「意見書」
なのです(戦っているわけではありませんが)。
そしてもう一度繰り返してしまいますが、「請願書」「陳情書」は、
- 請願: 国民が国または地方公共団体に対し、文書で希望を申し出ること =「請願書」
- 陳情: 特に官公庁や政治家に事情を述べて善処を求めること =「陳情書」
- 要望書: 他に向けてある物事の現実を強く望むこと
→「お願い」の要素・大 - 意見書: 物事や判断に対しての考え
→「提案や申し出」など自分の言いたいことの要素・大
「こうしたい(理由・意見)」
だから「こうして欲しい(目的・要望)」
のような関係です。
組織などのあり方に異議を唱える場合は「意見書」。
上層部に「モノ申す」のは勇気がいることですが、ここは「こうして欲しい」ではなく「自分(たち)はこう考えている」と伝え改善を求めるのですね。
ですが、より多く登場するのは「要望書」の方かと思います。
書き方に定められた形式はありませんが、以下にポイントとなる部分を挙げていきます。
- なぜ改善を求めるのか、について経緯を含め、わかりやすく、詳細に
- 現在の状況
- 改善して欲しい具体的な事項
「テストの結果を公表するのをやめて欲しい」
ということを訴えたいのなら、
- 成績下位の子どもたちのやる気がますます下がり、精神的にも落ち込むから
- 登校拒否、引きこもりの原因にもなっているから
- やる気をなくした子どもたちが、テスト前になると集団で熱を出すようになっている
- テスト結果を理由にしたいじめも起きている → 一切の結果の公表をやめる。もしくは上位数名のみを公表に留めて欲しい
なるべく具体的に、様々な例を挙げるのが効果的です。
そして「タイトル」も大事。
「テスト結果の公表に対する要望書」
では、受け取った側はピンとこないのです。
そこで、
「テスト結果公表廃止を求める要望書」
ダイレクトですね。
「あ、廃止して欲しい、っていう要望だ」
と一発でわかる。
シンプルかつ的確なタイトル。
わかりやすいのが一番です。
また、賛同者の人数も、当然多ければ多いほど、ことの重要性・説得力も増していきます。
一人の要望も大事なのですが、大多数の要望は聞き入れざるを得なくなる率がさらにアップ。
署名者の数が連なれば、その要望書はより通りやすいものとなります。
「請願書」「陳情書」「意見書」「要望書」の違いをまとめる!!
やっぱりというか、思った通りといいますか「○○法」が絡むと、言葉は何とも面倒くさいものになります。が、一度違いを知ってしまえば大丈夫。
提出後の流れなど、ややこしいことを書いてしまいましたが、ここでもう一度、純粋に
「請願書・陳情書・意見書・要望書の違い」
についておさらいです。
まとめていってみましょう。
法律で規定されているのはどれ?
- 請願書: 日本国憲法の基本的人権のひとつとして「請願権」が保証されています(憲法16条)
(※「請願」に関する法律としては「請願法」が制定されています) - 意見書①: 地方自治法第99条により「地方公共団体の議会は、公益に関する事件につき『意見書』を国会または関係行政庁に提出することができる」とされています
- 意見書②: 労働基準法第90条により「就業規則の作成・変更」の際に提出が義務付けられています
△陳情書: 性質的には「請願書」と変わりはありませんが、明確な法的な規定は設けられていません
→ そのため、取り扱いにおいても各議会により異なる場合があります
△要望書:「= 陳情書」とされることも多い。よって、同様に法的に明確な規定はありません
(※「請願書」「陳情書」の場合ですと「紹介議員」の有無により「請願書」の方が重みを増します)
本当に簡単にまとめると?
- 国や地方公共団体の機関に対し、要望等ある場合には、誰もが「請願・陳情」をすることができる
- そのうち「紹介議員」を必要とするものが「請願書」
- 必要としないものが「陳情書」
- 「要望書」は「陳情書」と同義とされることもある
- 「陳情書」「要望書」には「請願書」ほど明確な法的な規定が設けられていない
- 法律用語としての「意見書」には2通りあり
△「①」: 地方公共団体の議会が「議会全体の考え」として政府や国に対し提出することのできる文書
△「②」: 就業規則の作成・変更時に労働者側の意見を聞いた証として労働基準監督署に提出が義務付けられている書類 - これら行政機関以外、組織の上層部や自治会などに提出する際には「こうして欲しい」が主眼であるなら「要望書」
- 同じく、提案や意義などを唱える場合には「意見書」を提出
終わりに……
それぞれ初めに挙げた「書」抜きの「辞書的な意味」、これで大体あっているのですね。ただし「法律用語」として使われる場合には、特有の使い分けがなされる。
とはいうものの、厳密に法的な規定があるのは「請願書」と「意見書」のみ。
また「請願書」「陳情書」では、ともに「意見」「要望」を記載する欄もあります。
(これがないと、何をお願いしているか、なぜそれをお願いしたいのかが、わからないから)
何となく七面倒くさそうな手続きではありますが、自分の声が国政に反映される、または地域の環境をよりよくする、と考えますと、もの凄い制度のような気もしてきます。
実際に「○○書」を提出するかどうかはさておき、このようなことが認められていること、そして、これらによって、改善されてきた問題も多々ある、ということを知っていただけますと、なぜか無性に嬉しく感じます ──
さてさて、いかがでしたでしょう。
皆さまの「請願書」「陳情書」「意見書」「要望書」へのモヤモヤは、少しは解消しましたでしょうか。
法律用語はムダに難しい気がしてならないのですが、言葉の面倒臭ささえクリアしてしまえば何とかなります。
今後、何か希望や要望、意見等をどこかに訴えたい時に、ふと思い出していただけましたら本当に幸いです。
今回も最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。
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