紅色と、紫色と ── ん? さつま色って、何色?
……そういう意味でいえば「さつま色」は「紅色」ということになりますが ──
「さつま色」という色は存在していません……
── さて「紅芋・さつまいも・紫芋」です。
「さつまいも」は、何といいますか、要するに「さつまいも」。
石焼きイモでもおなじみの、あのおイモです。
問題は「紅芋」と「紫芋」。
こちらの2つにはちゃんとした違いがあるのですが、
地域によって「紅芋」を「紫芋」と呼んでいたり、または「紅芋」=「さつまいも」と思われていたり……
と、呼称事情だけ見ますと、かなりの錯綜状態になっています。
非常にややこしい。
ですが、それぞれの違い自体は、それほど複雑ではないのですね。
ちょっと複雑な程度です。
毎日のお買い物の際に、
「今日の晩ご飯、紫芋とさつまいも、どっちを買おうかしら?」
などということは、ほとんどないかと思いますが、これら3つの違いについてのモヤモヤだけでもスッキリさせてしまいましょう。
味やカロリーなども含めまして「紅芋・さつまいも・紫芋」のあれこれについて紹介させていただきます。
皆さまの「なるほどぉ」のお役に少しでも立てましたら幸いです。
目次
「紅芋」「さつまいも」「紫芋」はここで見分ける?
まずは「見た目」。これは3つとも、ほとんど変わりがありません。
ここで見分けるのはかなり難しいです。
お馴染みの「さつまいも」の外側(皮)はご存知のように「赤紫色(紅色)」。
「紅芋」も、皮は同じく「赤紫色」。
「紫芋」は若干紫が濃い目になっていますが、3つを並べじっくり見比べてやっとその違いに気づく程度の差しかありません。
これは困った……
では、切ってみます。断面を見てみましょう。
- さつまいも: 白っぽい黄色
- 紅芋: 赤紫色(紅色)
- 紫芋: 鮮やかな紫色。または赤みを帯びた紫色
- さつまいも: 赤紫色部分は「外側」のみ
- 紅芋:「外側」は「さつまいも」と同じ / 中身も「赤紫色」
(※ 沖縄産の「備瀬(びせ)」のように、皮の色が白く、中身が赤紫色の品種もあります) - 紫芋:「外側」「中身」とも、全体的に「紫色」
ただし「紅芋」と「紫芋」は文字で書けばこのような色の違いとなるものの、実際に見てみてもそれほどの違いは感じられないかと思います。
本当に似ているのですね。
── じゃあ、どっちか1つの名前に統一しちゃうか、この際、好きな方で呼んでOKってことでいいんじゃない?
いいと思いますし、ダメではないのですが「紅芋」と「紫芋」には決定的に違う部分があるのです ──
では続いて、その「まるで違う部分」をそれぞれ、お馴染みの「さつまいも」と比較しつつ見ていってみましょう。
「紅芋」と「さつまいも」の違いはココ!
「紅芋」の最大の特徴は「さつまいもの一種ではない」ということ。もう、スタートから違う。ちょっとびっくりです。
見た目(切らなければ)は本当にただの「さつまいも」なのですが、「紅芋」は「さつまいも」ではなく「ヤムイモ」の一種。
「ダイジョ」と呼ばれる沖縄など熱帯地方で古くから栽培されている品種なのですね。
沖縄では「おイモ」といえばこの「紅芋」のこと。
調理法も「さつまいも」と変わりません。
焼いたり蒸したり、お菓子作りに使われたりもします。
甘くておいしい。
でも「さつまいも」ではなく「ヤムイモ」の一種、「ダイジョ」です。
── なら呼び方も「ダイジョ」のままでよかったのでは……?
本当にそう思うのですが、実は「紅芋」とは「ダイジョ」の中でも「中身の色が赤紫色」のものを分けて呼んだものなのです。
「ダイジョ」自体、赤紫色の品種が多いのですが、白いものもある。
ですので「赤紫色のダイジョ」=「紅芋」。
ちなみに「紅芋」の呼称は沖縄特有のもの。
「ダイジョ」自体は沖縄県では「ウベ(フィリピン語)」と呼ばれることが多いそうです。
また同様にダイジョの産地である鹿児島県の奄美での呼称は「こうしゃまん」です。
こうなってきますと、もう呼び方なんて何だっていいような気もしてきます。
そしてこの、沖縄では「紅芋」と呼ばれている「赤紫色のダイジョ」が、他の地域では「紫芋」と呼ばれることもある、です。
── じゃあ、結局「紅芋」も「紫芋」も一緒ではないか!!
もの凄くそんな気になりますが、でも一緒じゃないのです。
では、続いて「紫芋」について。
こちらも「さつまいも」と比較しつつ見ていってみましょう。
「紫芋」とは?「さつまいも」とはココが違う!
前述の通り、「紫芋」と呼ばれるものの中には、「ヤムイモの一種である『ダイジョ』の中でも中身が赤紫色の品種」
つまり「= 紅芋」ですね。
これが沖縄以外の地域では、その身の色から「紫芋」と呼ばれる場合。
「紫芋」の正体その①です。
でも本当は「紅芋」。
そして「正体その②」。
これが本来の「紫芋」なのですが、こちらは「ヤムイモ」の一種ではなく、「さつまいも」の一種。
皮も中身も紫色の「さつまいも」です。
ここが外も中も似ている「紅芋」「紫芋」の最大の違い。
- ヤムイモの一種: 紅芋
- さつまいもの一種: 紫芋
- ヤムイモ: ユリ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属
- さつまいも: ナス目ヒルガオ科サツマイモ属
さて、こちらの「紫芋」ですが「さつまいも」「紅芋」に比べ、あまり甘くありません。
焼きイモや蒸しイモとしてそのまま食べられるよう、改良され甘い種類のものもありますが(「パープルスイートロード」「種子島紫」など)、多くは加工用の品種。
食品の色付けや、お酒の原料、ペーストやパウダー状にして、ケーキやタルトなどに使われることが多いのですね。
加工される前の生のままの姿を見かける機会が少ないのです。
また、現在はネット通販などで取り寄せることもできますが、生の状態で沖縄や奄美大島などから持ち出すことは基本的には禁止。
(これは「さつまいも」「紅芋」に関しても同じ)。
上記産地のさつまいもなどには本州にはいない害虫が寄生していることが多い。
しかも、被害にあうのは「内部」のため、外から見ただけでは安全が確認しづらいのです。
ですので、持ち込む際には「蒸熱処理」という水蒸気による消毒を受けなければダメ。
(※ 害虫による被害を広めないため。ネットなどで販売されているものも、すべて防疫処理済みのものです。「蒸熱処理」は低温で行われるため「蒸しイモ」にはなりませんのでご安心ください)
これにはかなり時間もかかります。
- 焼く、蒸すなどの調理法でそのまま食べるには糖度の低い(甘くない)品種が多い
→ 多くは加工用の品種 - 加工せずにそのままでもおいしい甘味のある品種もあるが、生のまま本州へ持ち込むには「消毒」が必要(「さつまいも」「紅芋」も同じ)
→ それでも糖度の高い「さつまいも」「紅芋」の方が甘い
逆に餡(あん)やようかん、クッキーやケーキなど、加工したものは多い。
「甘さ控えめ」な部分が、今度はウリになるわけです。
また、ペーストやパウダー状にされたものは、特徴的で非常にきれいな紫色をしています。
ご家庭でのお菓子作りなどに利用されている方も多いのではないでしょうか。
つまり「紫芋」のイメージは、そのものの姿ではなく「色」なのですね。
一般的によく知られているのは「さつまいも」。
中身の色は白っぽい黄色です。
ですので「赤紫色の中身を持った、さつまいもにそっくりな『紅芋』」を見て、
「あぁ、これが『紫芋』なのか」
という混同が起こる ── のではないか、と個人的には思っています。
「紫色をしたさつまいも」である「紫芋」ですが、「さつまいも」のように焼いたり蒸したりして食べるのには適さない。
適しているのは「さつまいも」の一種ではない「紅芋」の方。
「紅芋」「紫芋」ともに、スーパーなどに並ぶ機会は「さつまいも」に比べかなり低いですが、さつまいもの代わりとして調理するなら「紅芋」がおススメです(最終的には好みですが)。
「さつまいもではなくヤムイモ(ダイジョ)」なのですが、「さつまいもである紫芋」より「さつまいもっぽさ」を感じられるかと思います。
……だからこそ、呼称事情がややこしくなるのです……
みんな似ていてちょっと違う! 3つの違いをまとめる!
見た目での区別がつきにくい、というのはちょっとイヤですね。似ているくせにそもそもの種類が違う、というのも困ります。
困ったところで、どうにもならないのですが……
ですが、幸か不幸か「さつまいも」以外の2つが一般的なスーパーなどに並ぶことはほとんどありません。
案外よく見かけるのは「紫芋」のパウダーやペースト状のもの。
輸入食品専門店だけでなく、100均などでも「紫芋パウダー」が置いてあることもあります。
ネットの通販サイトでは「紅芋商品」の方が若干優勢気味。
パウダー・ペースト状のものだけでなく、ようかんやタルト、焼酎なども人気のようです。
一番手っ取り早いのは通販での入手ですが、加工したものであれば、旅行の際、空港で没収されることなくそのまま持ち帰ってくることも可能です。
余計なお世話ですが「お土産屋さん」より「現地のスーパー」での方が安く手に入ったりもしますので、よろしければ覗いてみてください。
「紅芋・紫芋」以外の商品のバラエティーも豊富で、時間があっという間に過ぎていきます。楽しい。
── さてさて、「さつまいも」はあまりにもポピュラーなので別格のような感じですが、あまりなじみ深くない「紅・紫」。
まさか「紅芋」が「さつまいも」ですらなかったとは……
そして「紫芋」。さつまいもの仲間なのに、そのまま焼いたり蒸したりしても、それほどおいしく(甘く)なかったとは……
中身の色にもびっくりですが、これらのことにもちょっとびっくり。
では、最後におさらいです。
若干書いてしまった感もありますが「味」の違い、そして気になる「カロリー」の違いも含めまして「紅芋・さつまいも・紫芋」の諸々について、もう一度まとめていきましょう。
「紅芋・さつまいも・紫芋」って、どんなおイモ?
- 紅芋:「さつまいも」の仲間ではありません
- 紫芋:「さつまいも」の仲間です
- さつまいも:……「さつまいも」です ◎紅芋
- ユリ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属
- 「ヤムイモ」の一種の「ダイジョ」という品種
- 「ダイジョ」の中でも「中身が赤紫色」の品種
→ 見た目は普通の「さつまいも」。中身の色が違います。
(※ 皮が白く、肉色が赤紫色の品種もあります)
◎紫芋
- ナス目ヒルガオ科サツマイモ属
- 紫色の「さつまいも」
→ 実際に見比べてみても「紅芋」「さつまいも」とそれほどの違いは感じられないかと思います(ただし「紅芋」もですが、「実際に見比べる」機会はほとんどないです)
◎さつまいも
- ナス目ヒルガオ科サツマイモ属
よくある「誤解」は?
- 紅芋:「さつまいも」の別称(もしくは正式名称)と思われていることも多い
- 紫芋: 沖縄で栽培されている「ダイジョ(赤紫色の中身を持つバージョン)」=「紅芋」=「紫芋」と思われていることが多い
味の違いは?
-
◎紅芋: さつまいもに似て、甘くおいしい品種のものが多いですが、全体的に「あっさりめ」と感じるかもしれません。
- 宮農36号(沖縄産): 甘みがかなり強い品種(皮・身ともに赤紫)
- 備瀬(沖縄産): 甘みは「宮農36号」に劣るが、きめの細かい食感でクリーミー(皮が白くて身が赤紫)
など
◎紫芋:「さつまいも」「紅芋」に比べ、甘味の少ない品種が多いです。 - アヤムラサキ / ムラサキマサリ / アケムラサキ など: 加工用に使われる品種
- パープルスイートロード / 種子島紫 / 種子島ゴールド など: 紫芋の中でも甘くおいしいため、焼きイモ・蒸しイモとして、またはお菓子などの原料となることが多い
ですが、それほど違いはなく、同じ「紅芋」でも品種による違いの方が大きいかと思います。
カロリーの違いは?
こちらも品種により違いがあるため一概には言えないのですが、3種ともそれほど差はなく、- 100グラムあたり「133キロカロリー」前後
どうして「紫っぽい」色をしてるの?
「紅芋」「紫芋」には「さつまいも」に比べ色素成分である「アントシアニン(フラボノイドの一種)」が多く含まれているからです。この色素成分がケーキやタルトなどの色付けに活かされるわけですが、それ以外の効果作用についても「アントシアニン」はかなり優秀。
以下、その期待される効果を挙げていきます。
- 抗酸化作用: がんの原因や生活習慣病を引き起こす可能性のある「活性酸素」の発生を抑制
→ 老化や病気から体を守ってくれます。 - 視力改善作用
→ 目のかすみや疲れ目にも効果があるとされています。 - コラーゲンを安定させる作用
→ 紫外線を吸収する働きあり。美肌、美白にも! - 免疫力の向上
- 肝機能を高める効果 などなど
終わりに……
見た目から3つを区別するのは難しく、切り口で「さつまいも」か「それ以外」かがわかる。実際に食べてみると、甘さの違いから「紅芋」「紫芋」の区別も大体つく。
──「甘い品種の紫芋」と「そこそこ甘い紅芋」の場合は……わからないかもしれません。
どちらもおいしいなら、まあいいか、ということなのかもしれませんが、実際には、
「紅芋」とは沖縄での「赤紫色の果肉を持つ、実はヤムイモの一種である『ダイジョ』」の呼び名
ただし、かの「農林水産省」によれば、
「2つに違いはない。地域による呼称の違い」
なのだそうです。
うーん。
確かに「沖縄の紅芋」が他の地域で「紫芋」と呼ばれることはありますが、沖縄では「紅芋」以外に「紫芋」も栽培されているのですね。
が「紅芋」の普及に伴い「紫芋」の栽培面積なども押され気味となり、現在では生産量もごくわずか。
ネット通販などでも、多くは「鹿児島産」のものとなっています。
かつて比較的盛んに作られていた「紫芋」に代わるもの =「紅芋」
という立ち位置から「紫芋と紅芋に違いはない」とされている、というのが正解なのかもしれません。
3つのおイモにはしっかりと「違い」はあるのです。
が、それをどう呼んでいるか、が地域によりバラバラ。
「紅芋」と「紫芋」は「違うものだが、呼び名はどちらも使われている」
「紅芋・紫芋」の呼称事情に関しては現在、このようになっています。
さてさて、何となくスッキリしない気もしますが、呼称とは案外このようなものなのかもしれません。
「良子ちゃん」を「よっちゃん」と呼んだり「ヨッシー」と言ってみたり……
……というのとはちょっと違いますが、お住まいの地域で「紫芋」と呼ばれているものが「実は沖縄産の紅芋」などの場合、やはり呼び名としては「紫芋」で、いいのだと思います。
それでもそれぞれに違いがあり、それぞれに適した用途がある。
ここさえ間違えなければ、おいしい焼きイモも、色鮮やかで甘さ控えめなスイーツも作れる。
── 最高です。
たかがおイモ、されどおイモなのです。
皆さまがおいしいおイモとリラックスタイムが過ごせますよう、併せて願っております。
最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。
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