いきなりで恐縮ですが、これら4つの違いを同時に考えると、ドツボにハマります……
例えば何か ── ボロボロになってしまったクッションカバーを新しく作り直すとしましょう。
まずはサイズを測り布を切ります。
この作業は「慎重」に、ですね。
初めが肝心。
ここで大きさを間違えてしまってはアウトです。
続いてミシンで縫っていきます。
ここも「慎重」にですが、できれば「丁寧」に、も付け加えてほしいところ。
作業のスピードは人それぞれですが、焦る必要はありません。
「ゆっくり」で構いませんので「綺麗」な仕上がりを目指してください。
と、このようにすべての言葉を使ってそれぞれの工程に合った言い方で使い分けることができます。
そして、
-
「丁寧」と「慎重」は、どちらを使ってもそれほど違いはなさそう。
また「ゆっくり」何かをすれば、必ず結果は「綺麗」になるのか?
などなど、確かにこれら4つ言葉の意味はちょっと紛らわしい。
ですが、どのような場面でも等しく「違いがわかりにくい4つの言葉」ではないのです。
「場合によっては意味が似ていて紛らわしい」になる言葉4つ、なのです。
例えば、ある場面では、
「こんな時には『慎重』と『綺麗』、どっちが適した言い方?」
などとなるのですが、そうでなく、
「慎重」は当てはまるけれど「綺麗」は全然関係ない(選択肢に上らない)言葉
のようになる場合もある。
ですので「4つの紛らわしい言葉」と一括りにしてしまうと、まとまりがつかなくなってしまうのです……
── 言葉自体はそれほど難しいわけではないのですが「これら4つまとめて」その違い・使い分け、となると、何となく頭に鈍痛が走り始めるような……
ゆっくり慎重に丁寧に違いを見ていきましょう。
最後はきっと綺麗サッパリ、これらへのモヤモヤがなくなるはず……
(先ほど同様、こんな感じで皆登場する場合もあるのですが)
「丁寧・慎重・綺麗・ゆっくり」の意味、使い分け等含めまして、違いを解説いたします。
皆さまに鈍い頭痛が訪れませんよう、スッキリのお手伝いとなれましたら幸いです。
目次
「丁寧・慎重・綺麗・ゆっくり」はココが違う!
まずは少しだけ毛色が違うようにも思える「ゆっくり」を使って、「丁寧・慎重・綺麗」との関係を見ていきましょう。「ゆっくり」+「丁寧」。
この場合「『ゆっくり』でいいから『丁寧』に仕上げてね」のようになります。
つまり「ゆっくり」と「丁寧」は、必ずしも同時進行するものではないのです。
「『丁寧』かつスピーディーに」でもいいわけです。
では「慎重」ではどうか?
「ゆっくり、慎重に」ですね。
こちらは「『ゆっくり』かつ『慎重』に」。
同時に存在できる関係です。
もしくは「慎重に」「ゆっくり」どちらか1つだけでも大体のニュアンスは伝わります。
慎重に何かをするということは、ある程度時間をかける、ということ。
チャチャッとやっつけられることではないからです。
そして「綺麗」。
こちらも「でいいから」のパターン。
「綺麗」に出来上がるなら、少々遅くなってもいいのです。
では「ゆっくり」は直接「綺麗」に繋がるのか?(先ほども出てきましたが)
そういうわけではないのです。
「ゆっくり」何かをやれば、その結果が必ず「綺麗」になるとは限りません。
上記のものは「綺麗にできるなら」ゆっくりでもいい、と言っているだけ。
「綺麗」ありきの「ゆっくり」です。
「綺麗」な仕上がりが求められていのないなら、「ゆっくり」やっていてはむしろ時間の無駄です。
「ゆっくり」とは「急がないさま」を表わしています。
「ゆったり」「まったり」、時間的にも空間的にも気持ち的にも余裕がある様子。
つまり、上記すべてにおいて「ゆっくり」とは「急がなくていい」と置き換えられるわけです。
ですが、何かの動作、空間が「ゆったり」であることは「丁寧」とも「慎重」とも「綺麗」とも関係がないのですね。
少しややこしくなってきましたので、それぞれの意味をざっと見てみましょう。
-
◎ 丁寧
- 注意がすみずみまで行き届いていること
- 手厚く礼儀正しいこと ◎ 慎重
- 慎み深く、重々しいさま
- 物事を行うにあたって、軽々しく行動しないさま ◎ 綺麗
- 見た目が華やかで美しいこと
- 濁りや汚れがなく清潔であるさま
- 潔いさま
- 心のやましさがなく、未練がましくないさま
- さっぱりしているさま、清浄・清潔
- 余計なものが全く残らないさま
- 完成され整っているさま ◎ ゆっくり
- 急ぐことなく事を行うさま
- のんびりとしているさま
- 時間、空間、気持ち的に余裕があるさま
上記のもののように「丁寧」「慎重」な行動や「綺麗」となる結果などに「急がない様子」が関係してくる場合には、「ゆっくり」は他3つと関わってくる言葉となります。
ですがそうでない場合には比べる対象ではなくなってしまうのですね。
また、「綺麗」も「丁寧」「慎重」には特に関係のない意味を持っています。
いくら「慎重」にやっても、結果的に「綺麗」にならないことは多々あるのです。
始めの方に書きました「綺麗サッパリ」、また「あの人はお金に綺麗だから信用できる」などでも「丁寧」「慎重」とは全く関わってこない使われ方をしています。
── こちらの4つの中で、本当に似通っているのは「丁寧」と「慎重」なのです。
そして場合・状況によっては「綺麗」「ゆっくり」もそこに参加してくることもあり、といった感じです。
「綺麗」「ゆっくり」の代わりに「丁寧」「慎重」が使われてもおかしくなさそうな場面は限られているのです。
ここをまずは押さえておいていただけますと、頭痛の危険性が低くなります。
前述の通り、どのような場合でも「違いがわかりにくい言葉の4つ」として捉えてしまうと、もはや投げ出したくなるレベルの闇に落ちます ──
…… 頭痛は大丈夫ですか?
ムリは禁物。
ゆったり、まったりいきましょう。
では同じような場面で使われ「似ていて違いのある」2つ、「丁寧」と「慎重」について、まずは見ていってみましょう。
「丁寧」と「慎重」はどう違う? 使い分けはこちら!
なぜか若干ホッとした気分です。こちらの2つは間違いなく紛らわしい。
そのことがこれほどの「ホッと」感を醸し出すとは……
前述の辞書的な意味からも分かります通り、「丁寧」「慎重」ではどちらも「注意深く」行動しています。
「丁寧」ではその行動に、より「心が行き届く」ことを、そして「慎重」では「軽はずみな態度をとらない」という部分に重点が置かれます。
例えば「石橋を叩いて渡る」。
- 「石橋を『丁寧』に叩いて渡る」: 石橋が壊れないようにそっと優しく(注意深く)叩いてい渡る
- 「石橋を『慎重』に叩いて渡る」: 叩いても壊れない石橋かどうか、注意深く試しながら渡る
普通に考えれば壊れない石橋にもかかわらず、敢えて叩いてその強度を確かめつつ渡る。
どれだけ慎重なんだよ、ということわざです。
この場合の「慎重」は、そのまま「用心深い」「注意深い」といった意味で使われています。
一方「丁寧」ではその注意深さは石橋への配慮。
石橋に対しての「手厚い振る舞い」「礼儀正しさ」などすら伺えます。
ここまでされる「石橋」──
何かの理由で叩かざるを得なかったのでしょうが……きっと文化財レベルです。
では市街地に迷い込んだ「危険生物」を捕獲しなければならない場合。
- 「実は気性の荒い野生のアライグマを捕獲するため『丁寧』に罠を仕掛ける」
- 「追い込んだアライグマを『慎重』に捕獲」
こちらの場合の「丁寧」は「念入りに」「綿密な計画のもと」などの意味で使われています。
先ほどの「礼儀正しさ」は要らないのです。
逃げ道を作らないよう、そしてその後、無事野生に戻せるよう、アライグマが傷つかないような徹底した罠を「丁寧」に作らなければならないのですね。
手を抜いてはダメです。
ある意味、遠くの方にアライグマに対する「礼儀正しさ」「配慮」なども見えますが、こちらの「丁寧」は「綿密に」の意が強く出ています。
他方「慎重」。
焦りは禁物です。
四つ足動物の速さは人間にはマッハに感じられるレベル。
ですので「細心の注意を払って」の意味で「慎重」です。
こちらは「石橋」の時同様、注意深さも要求されますが行動的には「ゆっくり」ですね。
動物は素早い動きに無条件に反応するからです。逃げます。マッハの速さです。
「ゆっくり」と多少被るのは「慎重」。
何事かを「慎重」に行おうとすれば、おのずとその動作は「ゆっくり」になるのです。
ですが「その意見って慎重すぎない?」などでは「ゆっくり」は関係なし。
もめ事を起こさないための「控えめな意見すぎない?」という意味で使われています。
これが「丁寧な意見」となるとまた変わってきますね。
「控えめ」ではなく、どちらかといいますと「漏れのない」意見。
誰に対してもわかりやすく、わかりにくそうなことにはすでに応えが用意されている意見です。
「丁寧」と「慎重」は、どちらも似たような行動を伴いますが、その目指すところが違うのです。
それぞれ重点の置かれる意味の部分は、
- 丁寧: 心が行き届いていること
- 慎重: 軽はずみな態度をとらないこと
その場合どのように言い換えられるか、を考えてみますとわかりやすくなりますね。
-
◎ 丁寧
- 礼儀重視: 礼儀正しい / 折り目正しい
→「丁寧な挨拶 → 礼儀正しく挨拶をする」 - 警戒や注意をすることに重点: 注意深い / 慎重
→「原稿を丁寧にチェック → 誤字脱字などがないか、わかりにくい表現がないかを注意深く(または慎重に)チェック」 - 漏れのないきっちりさ重視: 綿密 / 入念
→「旅行の計画を丁寧に立てる → 綿密なスケジュール表を作る」 などなど - 注意することを重視: 心して / じっくり
→「慎重に対処 → 敵は手ごわいぞ! 心してかかれ!」
「見直しは慎重に → ひっかけ問題もある! じっくり考えて解け!」 - 過剰なことを避けている様子重視: 控えめ
→(先ほどの)「慎重な意見 → 波風を立てない控えめな意見」 - 処世術的な側面重視: 自重 / 思慮
→「そこまで慎重にならなくても → いくら何でも自重しすぎじゃない?」 などなど
◎ 慎重
また「慎重」であることはトラブルなどを避けるためにも大事。
ですが、それが「控え目」な行動、つまり尻込みしているかのような消極的なものに捉えられる場合もあります。
-
「丁寧に仕事に取り組む」
「慎重に仕事に取り組む」
ミスすることを気にしながら仕事をしているようにもみえる「慎重」。
このようにニュアンスが変わってくるのですね。
ここもポイントとなります。
そして、
-
「心が行き届くこと」
「軽はずみな態度をとらない行動」
「綺麗」「ゆっくり」と「丁寧」「慎重」の関係 ♪
さて「綺麗」「ゆっくり」です。それぞれ「丁寧」「慎重」に関係してこない意味は前述の通り。
見た目の美しさや潔い様子を目にすれば、素直に「綺麗だ」と思います。
また、先ほど書きました「お金に綺麗」。
これはお金への未練がなく潔いこと、です。
そのためお金に関して、やましいことをしない、といった意味で使われます。
「お金に対して慎重」とも言いますね。
ですが「お金に綺麗な人」とはまるで違う意味で使われる言葉。
「慎重」を使う場合は「先々のことを考え、用心深いお金の使い方をする」といったニュアンス。
「綺麗」とは逆ですね(綺麗ではない、という意味ではありません。逆なのは言葉の使われ方)。
重要なのは「お金の使い方」について。
やましいや潔い、はそこには関係ないのです。
どのような使い方?
「慎重」で「用心深い」使い方です。
同じような場面で違う言葉が使われる場合には、その意味するところを押さえることがポイント。
そしてその言葉が使われることによって、場面はどう変化するのか。
どういったニュアンスのものに変わるのか、です。
では、今度は「丁寧」「慎重」「綺麗」「ゆっくり」でオムライスを作りましょう。
それぞれの調理には以下のような違いが出てきます。
-
◎「丁寧」に作られたオムライス
- レシピを参考に、濃いめの味付けが好きなお兄ちゃんにはちょっとケチャップ多めで
- 最近ダイエットにハマってるお姉ちゃんのご飯は少なめ、多めのサラダ付き
- 健康が気になるお年頃(中年)になってきたお父さんには薄味の炒飯っぽい味付けに。ついでにスープはヘルシーなみそ汁に変更
- 綺麗に卵で包んで盛り付け。余分なところについているケチャップやドレッシングを最後にふき取って完成!
→ アレンジ満載ですが、適当にやっているわけではないのです。家族みんなの好みや健康にまで気を配っているのですね。
◎「慎重」に作られたオムライス - レシピ通り、分量はしっかり測ります
- サラダ? え、待って待って! 今、サラダのレシピも調べるから!
- 卵で包むときには細心の注意で挑みます
- できたけど……テーブルに運ぶまでは気が抜けません。つまずいたりしたらせっかくの苦労が水の泡です!
→ 几帳面さ全開の調理。お疲れ様です、と声をかけたくなります。
◎「綺麗」に作られたオムライス - 一番のこだわりは、卵に合わせたお皿の色です!
- 盛り付けは大事。料理は目でも楽しむものです!
- サラダの色どりにも気を配りました!
- お店で出てくるようなオムライスの完成!
→ 確かに見た目は素人とは思えないほどの完成度です!
◎「ゆっくり」作られたオムライス - お昼に間に合えばいいから、お茶でも飲みながらまったり作ります
- 卵はしっかりかき混ぜるのがポイント。白身と黄身が混じり合うまで、気長にかき回しま~す
- いよいよクライマックス。卵on! 焦らず、慎重に!
- 出来上がり! 予定時間少しオーバー。でも、今日特に予定もないし、ま、いっか
→ 個人的にはこういう人も好きです。しかも卵を乗せる時は慎重にやっていますね。時間や行動がゆっくりなだけで、いい加減に作っているわけではないのです。
「丁寧」に作ったオムライスはおそらく見た目も綺麗かと思われますが、そこは二の次。
大事なのはこの場合、家族の好み・健康に対する注意が行き届いていること。
「慎重」ではおいしさや見た目以上に、決められたレシピ通り注意深く作ること。
「綺麗」では ── これは綺麗な見た目ですね。できればおいしいオムライスでもあってほしいです。
そして「ゆっくり」、こちらはこういったことではなく、余裕を持った作り方であることが肝心。
オムライス、ではなく、その作られ方が「ゆっくり」なのですね。
本当はこれらがバランスよく配合された調理法が一番なのですが……
「丁寧・慎重・綺麗・ゆっくり」、違いのまとめ!
イメージ的には、-
「丁寧」は「人気者の学級委員」。
「慎重」は「ちょっと融通が利かないけれど真面目で頼りにされてる放送委員」
「綺麗」は「クラスのマドンナ的美少女(図書委員)」
「ゆっくり」は「お総菜屋の娘さんで実は運動が得意(飼育係)」
……ものすごく偏見に満ちたイメージになってしまいました……
さて、それぞれに一番大事にしているものが違う4つですが、何となくでも、その使い分け方等、見えてきましたでしょうか。
ではここでもう一度おさらいです。
違いをまとめていってみましょう。
それぞれの意味は?
(※ 先ほど書いたものの繰り返しになります。何ならスルーしてしまってください)-
◎ 丁寧
- 注意がすみずみまで行き届いていること
- 手厚く礼儀正しいこと ◎ 慎重
- 慎み深く、重々しいさま
- 物事を行うにあたって、軽々しく行動しないさま ◎ 綺麗
- 見た目が華やかで美しいこと
- 濁りや汚れがなく清潔であるさま
- 潔いさま
- 心のやましさがなく、未練がましくないさま
- さっぱりしているさま、清浄・清潔
- 余計なものが全く残らないさま
- 完成され整っているさま ◎ ゆっくり
- 急ぐことなく事を行うさま
- のんびりとしているさま
- 時間、空間、気持ち的に余裕があるさま
「丁寧」と「慎重」の使い分けポイントは?
- 丁寧: 心が行き届いている(心遣いの部分がある)ことに重点が置かれているものに
- 慎重: 軽はずみな態度をとらない(行動部分に重点)ことが重要とされることに
「丁寧」「慎重」「ゆっくり」、どんな「綺麗」になる?
- 丁寧: 仕上がりも綺麗ですが、そこに至るまでの仕事も心を込めてやってくれます
- 慎重: 理想の出来上がりを伝えておけば、可能な限りそれに近づけようと頑張ってくれます
- ゆっくり: 時間はかかりますが、きっちりと仕上げてくれます
「丁寧」「慎重」「綺麗」と「ゆっくり」が組み合わさると?
- 丁寧: 時間を気にしなくていいなら、すみずみまで漏れのない完璧に近い仕事をしてくれます
- 慎重: これでもか、というほど注意深く間違いのない結果を出します
- 綺麗: 出来上がったものは売れるレベルになるかも
それぞれどんな時に使えばいい?
- 丁寧: そのことに関して、すみずみまで配慮していることを表わしたい時
- 慎重: そのことに関して、注意を怠らず取り組むさまを表わしたい時。ただし、時にはその姿が消極的と捉えられることも
- 綺麗: そのものの見た目の美しさ、心の清らかさ、潔さなどを表わしたい時
- ゆっくり: 空間、時間、気持ち的に余裕があることを表わしたい時
終わりに……
一つひとつの意味や使い方は、それほど難しくないのですね。どちらの言葉(もしくはどの言葉)も当てはまりそうな場合には、どこに一番重点が置かれているのか、がポイントです。
相変わらず日本語は面倒くさい ──
生まれた時からのお付き合いなのに、未だに「あれ? これってどういう意味だったっけ?」という言葉が出てきます。
ですが、数字や記号とは違い、一度「こういうわけで、こう」ということさえわかってしまえば大丈夫。
なにせ母国語なのです。
さてさて、いかがでしたでしょう。
「4つで一つと考えない」から始めてしまったため、若干ややこしさに拍車がかかってしまった感がありますが、それぞれの言葉の意味の違いからの使い分けに、少しでもスッキリしていただけていましたらうれしいです。
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