線を引いたり、長さを測ったりの他にも、
- 「杓子定規」なものの考え方
- 彼の生き様のカッコよさは、もはや「世間一般のものさしなんかじゃはかれない」レベルだ
なかなか闇が深い……というか、奥が深いです。
「杓子定規」とは、形式ばかりにとらわれて融通の利かないことを指した言葉。
「定規」には「物事を判断するときの基準・手本・模範」の意味があり、また「杓子定規」とは「正しくない定規で測ること」の意味も持ちます。
つまり正しくない「判断の基準・手本・模範」を指しているのですね。
一方「世間一般のものさし」が表わしてるのは「世間で一般的と言われている物事の基準」のようなもののこと。
「ものさし」にも「評価・基準・尺度」といった意味があるのです。
そのため「定規」を当ててもどうにもならなそうな「判断の基準」や、そもそも「ものさし」で測るものではない「カッコよさ」などにもこれら2つの言葉が使われているのですね。
だけど、どっちもほとんど同じことを言っているようにしか思えないんだけど……
- 「判断の基準・手本・模範」
- 「評価・基準・尺度」
……確かに。
別に「杓子ものさし」でも「世間一般の定規」でも、意味は同じような気も……
何となく響きが聞き慣れないため気持ち悪いですが……
-
なぜ似たような名前のものが2つもあるのか。
そもそも「定規」と「ものさし」とは同じものではないのか。
違いがあるなら、それはどこなのか。
謎だらけではないですか!
小学校時代の道具箱にちょこんと入っていた2つの控えめなイメージが、徐々に闇に包まれていってしまう……
……それはイヤだ。
曖昧な表現の多い日本語とは違い、はっきりとした意思表示を持つ「英語」ではどうなってるの? 等含めまして、「定規」「ものさし」の違いを解説いたします。
皆さまのモヤモヤが少しでも薄れましたら幸いです。
目次
「定規」と「ものさし」はココが違う!
まずは「道具」としての2つの違いから見ていきましょう。簡単に言いますと2つの違いとは、その「目的の違い」です。
- 定規: 線を引くのが目的
- ものさし: ものの長さを測ることが目的
そして「線を引く」ことを目的としているため、その種類は直線だけではなく様々な線に対応できる形のものが多数存在することになります。
代表的なもので「三角定規」。
また、曲線を描く「雲形定規」、製図に使われる「T字定規」などなど。
さらには長さを測りたい「ものさし」には必須の「目盛り」も「定規」では重要視されません。
あった方が便利、ということで目盛りのついたものもありますが、ズレていることも多く正確な計量器として使うには、若干心もとないものがあります。
目的はあくまで「線を引く」こと。
鉛筆などをあてがいやすいように、両端にはあえて余白が設けられています。
また面取り(角を削って面を作ること)やインクエッジ(ペンなどのインクが入り込まないよう段差をつけること)などを施しているものも多いのですね。
長さより、線の引きやすさです。
一方の「ものさし」。
一般的なまっすぐの「直尺」の他、巻き尺なども「ものさし」の一種です。
要するに
ものの長さを測るためのものが「ものさし」。
徹底しています。
以上が「道具」としての「定規」「ものさし」の一番の違い。
「線を引くため」のものか「長さを測るためのもの」か、ですね。
まずはこちらを押さえておいていただき、続いてそれぞれについて少し詳しく見ていってみましょう。
「ものさし」とは?
では誕生の古い順から。「ものさし」の方が圧倒的に「定規」よりも長い歴史を持っています。
線を引くことより、ものの長さを測る方が生きてくうえでは大事なことだったのですね。
さて「ものさし」のなかった時代。
それでも長さを知りたかった当時の人たちが用いたのは「大麦葦」や「棒」「綱」など。
原始的ですが、時代も原始なので、いいのです。
上記のものはメソポタミア文明を拓いたシュメール人の知恵。
また、指や腕などもその単位として使われていました。
今でも指を折って数を数えたりもしますが「ものさし」感覚ではありません。
さらには古代の人々は目や耳も良かったため、
- 視覚による距離の測り方: 遠くの牛の角の間隔が見分けられるか否か
- 聴覚による距離の測り方: 平地にいる犬・馬などの鳴き声が聞こえるか否か
凄いです。
現在の「ものさし」の範疇を軽く超えています。
それこそ「現在のものさしでは測れない」といった感じです。
このような方法をとりながら、人類はいろいろな方法で長さを測り進化を続けていきます。
獲物までの距離はどの程度なのか、はたまた育てている植物はどのくらい大きく成長したのか、などは確かに大事。
線が引けなくても、ここはぜひとも知りたいところです。
そして時は紀元前1万2千年。
当時の遺跡から「東アジア共通の単位」が検出されています(中国大陸・朝鮮半島・日本列島で)。
その単位は「17.3㎝」。
何を基準にしているかといいますと「女性の親指と中指を広げた長さ」なのです。
これが「一尺」とされていました。
ですが現在の一尺はおよそ30㎝。
だいぶ伸びていますね。
「親指と中指を広げた長さ」は、人によっても異なります。
そのため、一定の長さに決めてほしかった後の時代の人たちの要望により、当時中国では「公定尺」なるものが定められることになります。
同時に人々が日常で使う単位も長くなってきていたため、それに合わせる形で「公定尺」も長く設定されるようになった、とも言われています。
日本でも中国からの「一尺」の制度を取り入れつつ、大宝律令で「大尺」「小尺」が制定されますが(異説もあり)、律令時代の崩壊により、これらの統一が難しくなっていきます。
各地で独自の「一尺」が展開されていくのですが、当時を代表する「鉄尺」と「竹尺」を平均して作られたのが「折衷尺」と呼ばれるもの。
生みの親はあの「伊能忠敬」さんです。
日本地図を作った人ですね。
(※「鉄尺」とは鉄製のものさし。「曲尺(かねじゃく)」の別名です。
「竹尺」とは竹でできたものさしのこと)
そして明治時代になると政府はこの「折衷尺」を公式な曲尺(単に「尺」という場合はこの「曲尺」を指します)として採用。
これが現在に至るおよそ30㎝の長さです。
身体の一部を使ったり、長さに変化を伴う長い歴史を持つ「ものさし」ですが、とにかくその目的は「長さを測ること」。
さて、そんな「ものさし」。
これを「定規」の代用とすることはできないのか?
できるのです。
上記の「鉄尺」が実際に当時裁断用に使われていたのでは、と考えられえています。
ですが、徐々に「定規」にしかできないことが出てくるのですね。
では、続いてその「定規」について見ていきましょう。
「定規」とは?「ものさし」との違いはココ!
さてさて「定規」です。「定規」の歴史は「ものさし」に比べ、それほど長いものではありません。
「定規」誕生以前は、前述の通り建築などで使われていた鉄尺や曲尺などがその代用とされていました。
そこに「紙」の登場。
一般に普及されたことにより現在の「定規」的な役割を持つものが必要とされてきます。
-
直線だけでなく、曲線も描きたい。
正確に90度の角度で直角を描きたい……
その用途により、まっすぐのものが主流であった「ものさし」にはできない芸当です。
そこで「定規」。
そして、先ほどもチラリと書きましたが「線を引く」ことに特化させるため、鉛筆等をあてがいやすいよう、当てる部分の面を取り、またインクなどが滲まないよう段差を少しつけたものなどが生み出されていきます。
曲線をきれいに描くための「雲形定規」。
一般的な「定規」ともいえる「三角定規」では、異なる角度から成る三つの角により、正確な角度を描くことができます。
紙に線を引くだけでなく、洋服のパターンを引く際にも「定規」は重宝します。
「定規」を当てたまま、それに合わせてカットすることもできるわけです。
しかも、そのラインは直線だけでなく様々。
「定規」バンザイ。
「ものさし」の進化系のようですね。
ただし、あくまで「定規」に求められているのは、カットや線引きのための使いやすさ。
ですので前述の通り「ものさし」と同じくまっすぐな形状のものでも、つけられている目盛りにはそれほど気を配られてはいません。
線を引きながら「だいたい何cmくらい」とわかればいいのですね。
また、目盛りの始まりの位置も「ものさし」とは違い「余白」を置いて「ゼロ」からスタートです。
例えば地面や床を起点として、そこからの高さ(長さ)を測るとします。
「余白」があるため、目盛りの若干のズレに目をつぶっても「定規」では正確な長さが測れないことがおわかりいただけるかと思います。
逆に「ものさし」でしたらそのまま起点に立てることで目的の長さを測ることができるのですね。
なぜなら「ものさし」では端が「ゼロ」。
端からぴったり1cm分隔てたところに打たれた目盛りが「1cm」だからです。
計量のための「ものさし」とは異なり「定規」が正確な「計量器」にはなれないのはこのような理由からなのです。
ちなみにもともと「定規」は「定木」と書かれていました。
「定める木」ですね。
文字通り「物の形を定める」の意味を持ち、そのため形状にも様々な種類があるのです。
さてさて、それぞれの誕生や役割を知っても多少の「面倒くさい感」が漂う「定規」「ものさし」ですが、英語では何と呼ばれているのか?
これが実は結構面白いことになっているのです。
★「定規」「ものさし」、それぞれの英語表記は?
-
◎ものさし
- 道具として: mesuring / mesure
→ 日本でもおなじみ、あの「メジャー」。原義は「測定する」。納得です。 - 基準・尺度として: yardstick
- 標準: standard
→ こちらはもうものを測る「ものさし」からはかけ離れた言葉になっていますね。
➡「mesure」にもこのような意味が充てられていますが、「対策・手段・処置」また「判断などの基準」「程度・度合」の意味で使われる場合には「yardstick」「sutandard」とされることが多いのです。
-
◎定規
- 「支配者」の意味で: ruler
- 理性・道徳律などの象徴(としての定規): ruler
- 三角定規: triangle
- T字定規: t-square
- コンピュータ用語: ruler(文書表示部分以外の外側に表示される目盛り)
- 活動や行動に習慣的な様式(としての定規): pattern ➡ どちらかといいますと「定規」は「判断の基準・手本・模範」の意味合いで使われることが多く、「三角定規」や「T字定規」にはそれぞれ、違った単語が充てられているのですね。
「定規」の方が
「手本・判断のよりどころとなるもの」
といった部分が強く、
同じく「物事の評価のよりどころとなるもの」の意味を持つ「ものさし」では、その基準は
「時や人、場合」などにより変わりうるもの
となります。
「定規」と「ものさし」のまとめ ♪
ものの長さを測るものは英語では「メジャー」、つまり「ものさし」。「定規」は「手本・基準」などの意味を持つ言葉で、日本でのいわゆる「定規」についてはそれぞれ別称がある……
そのこともあり、日本語で「基準」等示す場合にも「定規」に比べ「ものさし」で測ったものは時と場合、人によっても変化のあるもの、とされているわけですね。
日本感覚でいえば逆のような気もします。
時や場合により「目盛り」の規格が変わっては困る……
そこはさておき、少しだけ冒頭に戻りましょう。
「杓子定規」と「世間一般のものさし」です。
前述の通り「杓子定規」とは「融通の利かないこと」。そして「間違った定規で測ること」の意味を持つ言葉。
「間違った定規」とは、長さを示す目盛りがズレていることを言っているのではなく「規準・手本」として拠りどころとする部分の誤りを示していたわけです。
「そりゃあ、確かに一般的にはそうだけど、今は彼のことだけを思ってやろうよ」
などといった感じ。
そして「世間一般のものさし」。
この「世間一般」の部分は、ものさしを使う状況や人により、何にでも変わりうる、ということ。
ですので、
「『世間一般』のものさしではこうだが、『この地域限定』のものさしで測ればこうなる」
のような変化もありなのです。
よく「自分のものさしでしかモノを見ない人」などと批判的に使われたりもしますが、これも同じですね。
要するに「自己中」なものの考え方、ものに対する尺度のことです。
「杓子定規」も困るけれど「自分のものさし」っていうのも困る……
うーん。
こうしてみると、道具としての目的の違いもさることながら、「基準」などでの使い分けもかなり細かい。そして、案外納得できます。
さてさて、ではここでもう一度「定規」「ものさし」についてのアレコレについてのおさらいです。
まとめていってみましょう。
それぞれ何のための道具?
- 定規: 線を引くための道具(関西では「さし」と呼ばれることも)
→ また、裁断などの際には、そのままハサミやカッターなどをあてがいカットすることも - ものさし: ものの長さを測るための道具
→ 長い歴史を持ちますが、一貫して「長さの測定」のために使われてきています
どんな形のものが主流?
- 定規: 一般的な「定規」といえば「三角定規」かと思われますが、曲線を描く「雲形定規」や、製図などに使われる「T字定規」などその形状は様々
→「ものさし」と同じくまっすぐな板状の定規もあります。 - ものさし: 主流はまっすぐな板状のもの
→「巻き尺」なども「ものさし」の一種です。とにかく「ものの長さを測るもの」が「ものさし」です。
素材は?
- 定規: 特にこだわりなし
→ 多いのはプラスティック製の軽いものや、裁断等に使われる鉄製のもの(かつて鉄製のものさし(鉄尺)が裁断用の「定規」として代用されていました) - ものさし: 温度や湿度に強い素材が主流
→ 竹やステンレス製のものが多いです(ステンレス製のものは「カッティング用定規」としての用途にも多く使われています)
目盛りの違いは?
- 定規: それほど重要視されていません
→「線の引きやすさ」を重視するため、あえて両端に余白を設けています。また、目盛りには若干のズレがあることも。
→ 正確な計量器にはなれません。でも線引きとしては優秀です! - ものさし: ココこそ「ものさし」の真骨頂
→ 単位は異なっていても、必ず端から目盛りがついています。
→ 30cmのものさしなら、端から端までできっちり「30cm」。計測は任せて!
終わりに……
小さい頃からお世話になっていた道具だったのに……大丈夫です!
これはあくまでも2つの「違い」をあえて挙げたもの。
実際にはそれほど厳密に使い分けなくても問題ないのです。
ただし、そもそも何のために生まれたものなのか、は「定規」「ものさし」ではまった違うのですね。
もともと自分たちの身体の一部や棒や網などを用いて測っていた「長さ」を、一定のものにしようと生まれた「ものさし」。
そこから、さらなる目的に合わせて進化したかのような「定規」。
これまでも進化を続けてきたのですから、「定規兼ものさし」がいずれ出てくるかも……イヤ、用途が違いすぎるからないか……
どちらにせよ、言葉は言葉です。
それほどこだわらなくても目的さえ達せられればいいのですね。
さてさて、いかがでしたでしょう。
ちょっと面倒くさい日本語。
でもそれなりに意味もある日本語。
……どちらかというと、かなり面倒くさい……
うーん。日本語って……
ですが、皆さまのモヤモヤが、少しでも薄まっていましたらうれしいです!!
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