「白いクマ」と「北極にいるクマ」? あ、「ホッキョクグマ」も白い……
あまり真剣に考えたこともありませんでしたが、考え始めると、これは謎です。
考え始めなければ、普通にスルーできたのに……
ホッキョクグマ以外の白いクマが「シロクマ」?
……そんなクマ、いる?
いないわけではないのですが、そういう話とはちょっと違うのです……
「シロクマ」と「ホッキョクグマ」、その強さのレベル、見分けられる? 等含めまして、違いを解説いたします。
夏になると動物園で魚などの入った氷をガジガジかじっている白くて大きなクマ。
彼らは果たして「シロクマ」なのか「ホッキョクグマ」なのか?
皆さまの「そういうことね!」的スッキリに少しでも貢献できましたら幸いです!!
目次
「シロクマ・ホッキョクグマ」はどこが違う?
これは、本当に簡単に言えてしまうのですが「一般的にシロクマと言われているクマの正式名称がホッキョクグマ」なのです。生物学上の分類で「シロクマ」というものはいないのですね。
本来の名称が「ジャイアントパンダ」である「パンダ」に「シロクログマ / イロワケグマ / 熊猫 / 大熊猫」などの俗称があるように、「北極に生息している白いクマ = 通称シロクマ」なのです。
ですが、ここで少しややこしくも面白い事実がありまして、実は日本に「ホッキョクグマ」がやってきた時「シロクマ」と呼ばれていた(「ホッキョクグマ」ではない)クマはすでに上野動物園に存在していたのです。
その「シロクマ」とは何クマ?
ツキノワグマです。
ツキノワグマとは、全体に黒く胸元にだけその名の由来ともなる「月の輪」状の白い体毛を持つことが特徴的なクマ。
上野動物園の「シロクマ」は、前足にわずかに赤褐色の体毛を残すのみの、白い体毛に覆われたツキノワグマだったのです。
このツキノワグマは「アルビノ」または「白化型」「白子」などとも呼ばれる個体。
メラニン色素を作る遺伝子を持たずに生まれます。
ですので本来の体毛や皮膚の色も作ることができず、真っ白な体となるのです。
彼らには視力が弱かったり、紫外線への耐性が低いなどのハンディキャップもあり、また色素が全くないため、毛細血管の色が透け瞳が赤く見えるのも特徴の一つ。白兎などもそうですね。赤い目をしています。
ホッキョクグマも白い体毛ですが、こちらは「白変種」と呼ばれるもの。アルビノとは違い、正常な遺伝子の作用で体毛が白くなっているのです。
メラニン色素も残っているため、模様などは通常の個体と変わらず浮かんでいます。
ホワイトタイガーなども白変種です。特徴的なトラ柄(?)はしっかり確認できます。黄色がかった一般的なトラの体毛部分が白になっただけですね。
毛細血管が透けて見えることもないため、目の色が赤いこともありません(稀にですが、アルビノでも白変種でもない白い個体もいます)。
それはさておき、その「アルビノのツキノワグマ」がすでに上野動物園では他のツキノワグマと区別するため「シロクマ」と呼ばれ飼育されていたわけです。
そこにドイツからやってきた「北極の白いクマ」。
……名前がかぶる……
ちなみに「ホッキョクグマ」は「Polar Bear(ポーラーベア)」として日本にやってきました。
これを直訳すると「北極のクマ」。
ならば、ということで上野動物園では「ポーラーベア」=「ホッキョクグマ」としたのですね。
ですので、当時(1902年)の上野動物園には「シロクマ」と「ホッキョクグマ」が両方存在していたことになります。
が、それは特例のようなもの。
「シロクマ」とは、上野動物園のその「白いツキノワグマ」だけを指す言葉ではないのです。
じゃあ「シロクマ」って、何なの?
では続いて、それ以外に「シロクマ」と呼ばれるものはいるのか? などについて見ていきましょう。
「シロクマ」とは?
「ホッキョクグマ」を指して「シロクマ」ということは案外普通。白いですので違和感もありません。しかも言いやすいです。ですので「ホッキョクグマ」の別称・俗称・通称として「シロクマ」でもいいのですが、先ほどの上野動物園の例を考えると、やはり、紛らわしさに拍車がかかる……
実際に前述の白いツキノワグマの生息地(新潟県中央部の県境の山地)では、他にも4頭のアルビノ個体の捕獲記録があり、遺伝子疾患をもって生まれる確率がその地域では高いと考えられているそうです。
さらに「ヒグマ」や「ハイイログマ(ヒグマの亜種 /「グリズリー」の名での方が有名かもしれません。内陸に生息するヒグマを北米ではこの名で呼んでいます)」の中にも、アルビノ、もしくは白に近い毛色の個体も存在しています。
それらも「シロクマ」と呼ばれるのですね。
俗称として「シロクマ」でも構いませんが(特に小さなお子様なら、無理して「ホッキョクグマ」と言わせなくてもいいような気がもの凄くします)、「シロクマとはホッキョクグマの俗称として使われている」だけではない、というところがポイントです。
本来の体毛色とは異なり「白色」の体毛・皮膚で生まれたアルビノ個体を呼び分けるときに使う言葉でもあるのです。
ですので「ツキノワグマのシロクマ」も「ヒグマのシロクマ」もいる、ということになります。
「見分け方は?」については、これはもう「ホッキョクグマ」かそれ以外の種類のクマか、です。
「ホッキョクグマ」でなければ白いクマでも「ホッキョクグマ」以外のクマ。
「ホッキョクグマ」は標準で「白」=「シロクマ」。ですがイレギュラで「白」=「シロクマ」でもあるのです。
まずは「ホッキョクグマ」かどうかを見分けられることが先決。
続いて、その特徴や強さなど「ホッキョクグマ」について見ていきましょう。
「ホッキョクグマ」とは? 強さのレベルは?
その名の通り、北極圏の氷に覆われた海にすむ「ホッキョクグマ」。「地上最大の肉食獣」とも言わています。
その大きさはオスで体長2.5メートルから3メートル、体重は300キロから大きな個体では何と800キロ、メスは体長2~2.5メートル、体重は150キロから300キロ。オスの半分程度しかないのですね。
このようにオス・メスでここまで体の大きさに違いのある哺乳類は珍しいのです。
ちなみに「日本最大の哺乳類」といわれる「ヒグマ」では大きなものでも500キロを超える程度。
ホッキョクグマ、大きいです!
そして言わずと知れた真っ白い毛。5センチから15センチもの長さがあり、下毛と上毛の二層になっています。
ですが、実はこれ、透明なのです。しかも地肌(皮膚)の色は黒。
透明な毛が集まり、そこに受けた光がばらばらに散らされるため、白く見えているのです。
また、透明な体毛は太陽の光をダイレクトに皮膚に届けるためにも一役買っています。
さらに体毛自体はストロー状になっており、内部に空気を取り込み断熱性もアップ。
皮下脂肪も分厚く、毛皮の下はびっしりと最大12センチもの脂肪の層を蓄えています。
これは防寒のためだけでなく、泳ぐ際の浮力としても有効(筋肉などに比べ脂肪は軽いから)。
うーん。何とも効率がいい。厳しい寒さの中で生き抜いていくのにどこまでも特化した体をしています。
首が長く頭や耳が小さいのもホッキョクグマの特徴の一つ。
水の抵抗を減らすため、と言われています。
ヒグマなど同じく大型のクマに比べ肩の盛り上がりが小さいことも泳ぎを得意とするホッキョクグマならでは。
足の太さも特徴の一つです。
これは体重を分散させ、氷を割ることなく歩くためには重要なこと。
ホッキョクグマは陸地で生活する動物ではあるものの、実際にはほとんどを氷の上で過ごしているのですね。
ちょっとびっくりですが、流氷に乗り、北海道や新潟の海岸に流れ着いたこともあるのです。いや、実際に流氷に乗ったホッキョクグマを目撃した人たちは「ちょっとびっくり」どころではなく相当びっくりでしょうが……
そして氷の上で休んでいる獲物を見つけると海に潜り捕食です。
好物はアザラシ。特に「ワモンアザラシ」の赤ちゃんが大事な栄養源。なぜなら体脂肪が多いから。
ホッキョクグマは、主に捕食した獲物の脂肪分を食べることにより、皮下脂肪を蓄え、厳しい寒さに耐え得る体を確保していくのです。
アザラシの赤ちゃんがかわいそうな気もしますが、これが自然・弱肉強食、なのです。
ですが、このように絶対王者的なホッキョクグマは、実は「危急種」として登録(国際自然保護連盟【IUCN】)されている生き物。
絶滅の危険性が高いとされているのです。
夏になれば氷は溶け始め、流氷が増えていきます。
ホッキョクグマは氷の上でほとんどを過ごしますが、それは安定した定着氷の上であることが前提の話。流氷に乗って常に移動しているわけではないのです。
流氷が増えれば、今度は安定した北極沿岸の陸地に移動することになります。
陸地では食べ物が確保しづらいため、その間はほぼ絶食状態。海が再び凍りつくのは秋です。オスでも3.4か月、メスであれば妊娠の時期とも重なるため、その間なんと最長8か月にも及びます。
夏になる前にたくさんの脂肪を蓄えておかなければこの時期を乗り越えられません。
ですが、こうした厳しさも、自然とホッキョクグマの間ではしっかり折り合いのついていたこと。
実はかつてにも一度、ホッキョクグマは狩猟などによる絶滅の危機を懸念されていた時期がありました。が、国際的な保護活動の甲斐もあり、何とか危機を脱しています。
ところがまた再び、絶滅の危機です(2006年5月に上記IUCNに登録)。
ただでさえ流氷が増える夏には断食状態を強いられているホッキョクグマに、さらに追い打ちをかけるかのような気温の上昇。絶滅の危険性を高めている原因は地球の温暖化です。
加えて北極圏の環境の悪化も手伝い、個体数は減ってきています(世界中の国の出す有害な物質が、北極や南極に集まってきてしまうため、かなりの汚染濃度となります)。
……心配です。ホッキョクグマだけでなく、温暖化の影響を受ける生き物すべてが心配……地球規模で心配です……
ホッキョクグマの強さが知りたい!!
さてさて、環境問題はとりあえずおいておき(本当はおいておいちゃダメですが)ホッキョクグマは強い。もう百獣の王なんて相手にならないほど強いのです。
体の大きさ、脂肪の厚さ、体重、体格、その防御力の強さ、攻撃力などなど、半端ではないです。
先ほどの「シロクマ」としても登場の「ヒグマ」も大型のクマですが、ホッキョクグマの牙や歯などは、捕食能力に長けた形状。牙の長さ、鋭さがヒグマの比ではありません。また大型の個体であれば、ホッキョクグマのものより長い爪を持つヒグマですが、こちらも鋭さで敵いません。ホッキョクグマの勝ち。
「グリズリー(ハイイログマ)= 凶暴」というイメージがあるかもしれませんが、凶暴さだけではホッキョクグマには太刀打ちできません。ホッキョクグマ強し。
また、近年発見されたホッキョクグマとグリズリーのハイブリッド(混血)、こちらはまだよくわかっていない部分が多いため、その強さも今のところ未知数。体の大きさではホッキョクグマを上回る個体もいるかもしれませんが、もうこの個体はほとんどホッキョクグマといってもいいのではないでしょうか(ハンターがホッキョクグマと間違えて狙撃したことで存在が明らかになった種ですし)。
ですので「ホッキョクグマ」VS「シロクマ」、または「ホッキョクグマ」VS「ホッキョクグマ以外のクマ」だとしても「ホッキョクグマ」の圧勝。
個人的には、強いのはわかったから、なるべくケンカしないでね、と言いたいのですが……
「シロクマ」と「ホッキョクグマ」をちょっと強引に比較♪
「シロクマ」とは一般的には「ホッキョクグマ」の別名。学問上の正式名称は「ホッキョクグマ」。もう、これに尽きるのですが……
ほんの少し強引ですが、「シロクマ」「ホッキョクグマ」のあれこれの比較をまとめていきつつ、それぞれのクマの特徴等、もう一度見ていってみましょう。
「ホッキョクグマ」以外で「シロクマ」って呼ばれるクマは?
- 1902年に上野動物園にいたアルビノの「ツキノワグマ」 → そのため当時ドイツから日本にやってきた「Polar Bear(ポーラベア)」のことを、日本語に訳した「ホッキョクグマ」の名称で呼ぶことしました。上野動物園の「シロクマ(アルビノのツキノワグマ)」の生息地である新潟県中央部の山地では、他にも4頭のアルビノのツキノワグマの捕獲が記録されています。
- 「ヒグマ」やヒグマの亜種である「ハイイログマ(グリズリー)」 → このうちアルビノである個体も他の個体と区別するため「シロクマ」と呼ばれることがあります。
「ホッキョクグマ」の大きさは?
-
◎オス
- 体長2.5メートルから3メートル
- 体重は300キロから800(!)キロ ◎メス
- 体長2メートルから2.5メートル
- 体重は150キロから300キロ → 哺乳類でここまでオスとメスで大きさの違う、というのは珍しいことです。
→ 食肉目(ネコ目)クマ科クマ属の地上最大の肉食獣。もちろんクマの中でも最大です。
「シロクマ」の大きさは?
- 「ホッキョクグマ」=「シロクマ」の場合: 上に同じ。
- 「ツキノワグマのアルビノ」=「シロクマ」の場合: 体長120~180センチ / 体重(オス)50~120キロ・(メス)40~70キロ
- 「ヒグマのアルビノ」=「シロクマ」の場合: (オス)体長250~300センチ / 体重250~500キロ・(メス)体長180~250センチ / 体重100~300キロ
- 「ハイイログマのアルビノ」=「シロクマ」の場合: 北米でのヒグマの(内陸に住む)呼び名なので、ヒグマと同程度か若干大きめの個体が多いようです
どうして他のクマと違って体毛が白いの?
- シロクマ:「アルビノ(白化型)」。突然変異や劣性遺伝により、生まれつきメラニン色素を作ることのできない個体のため。色を作ることができないので本来の色ではなく「白色」になります。
- ホッキョクグマ:「白変種」。正常な遺伝子作用で白くなったもの。メラニン色素も残っているため、模様などはしっかりと確認することができます。
「シロクマ」と「ホッキョクグマ」はどっちが強い?
その「シロクマ」がどの種類の「クマ」であっても強いのは「ホッキョクグマ」です。見分け方は?
大きな体、鋭い爪、体に比べて小さな顔と耳、北極圏に住んでいる、泳ぎが上手などなどが「ホッキョクグマ」の特徴です。これらに当てはまらない白いクマは「シロクマ」と呼ばれる別種のアルビノのクマかもしれませんが(稀にアルビノでも白変種でもない白い個体も存在します)「ホッキョクグマ」ではありません。
「劣性遺伝」で生まれる「アルビノ」って「劣」ってるの?
「劣性遺伝」とは劣っている遺伝子、という意味ではありません。例えば違う特徴を持った二人のご両親がいたとします(大抵はそうです)。
その親から子供に伝えられる両親の性質を「形質」といいますが、違う(対立する)形質同士では強い遺伝の方が子供に受け継がれます。
その強く現れる遺伝子の形質が「優性遺伝子」、現れなかった方が「劣性遺伝子」です。
遺伝子の中であらかじめ決まった法則のようなものが存在しているので、現れ方に差が出るのですね。
「劣性遺伝」とは本来出にくい方の形質に偏ってしまうこと。
珍しいことではありますが、そもそも「優性」「劣性」とはどちらかが優れている、といった意味で使われる言葉ではありません。
アルビノも強い光に弱い等、ハンディキャップは持ちますが、決して劣っているわけではないのです。
……紛らわしいので、ほかの表現にすればいいのに、と、ちょっと思います……
終わりに……
上野動物園……紛らわしさのスタート地点……ですがもし「ポーラーベア」がやってきた当時に「シロクマ」と呼ばれるクマがいなかったとしたら「ホッキョクグマ」は果たして現在何と呼ばれていたのでしょうか。
「ポーラーベア」のまま? いや、動物の命名の傾向からしても「○○クマ」にはなっているはず……やっぱり「シロクマ」?
ちなみに「ポーラーベア」の英語での別名は「ホワイトベア」です。「シロクマ」ですね。
…………
ならもう「シロクマ」は「ホッキョクグマ」の通称、別名で正解、ってことでいいんじゃないの?
はい……そんな気になってきました。「ホワイトベア」ですし。
あくまで通称、さらに他のクマにも使われることもある、ということさえ覚えていれば、それでいいのです。
さてさて、いかがでしたでしょう。
何となくタイトルから外れたことばかり書いてしまったような気もしますが、「シロクマ」と「ホッキョクグマ」の違いに少しはすっきりしていただけましたでしょうか。
ぜひ、動物園で見かけた際には「お、通称シロクマだ!」などとこっそり呟いてみてください。
そして万が一野生のものと出くわしてしまった時には(ホッキョクグマは動物園以外では出会えませんが)仮に小柄なクマでも命がけで逃げてくださいね。
彼らは小さな個体でももの凄い破壊力を持っています。闘おうとしてはダメですよ!!
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