こんな『違い』があったんだ!

『弱冠』と『若干』の違いとは? 意味と使い分けは?

疑問
「若干」は使わないこともないけど、「弱冠」はほとんど使ったことないかも……
疑問
私もそうかも……

「弱冠」「若干」、どちらも「じゃっかん」。

日本語の大好きな「同音異義語」というやっかいなヤツです。


「弱い」「冠(かんむり)」と「若い」「干……」なに?

2つとも漢字の見た目からは何を意味する言葉なのかが、ちょっと想像がつきません。

ですが「若干」の方が「弱冠」よりは多少身近な言葉でしょうか。


どちらにしても、あまり話し言葉では頻繁に登場する言葉ではないのですが……


だからこそ、いざ出会ってしまうと使い分けなどに、困るのです……!


「弱冠」「若干」、2つの「じゃっかん」の意味、使い分け等、違いを解説いたします。

意味や違いがわかってしまえば、同音異義語なんて、大したことないのです!

「『弱冠・若干』いつでもかかっておいで!」的皆さまの余裕に少しでも繋がれば幸いです。
目次

「弱冠」「若干」の違いはココ!

まずは2つがどのように使われているか、から見ていきましょう。

  • 弱冠: 弱冠17歳の天才クライマー / 弱冠ながら好成績を収める
  • 若干: 採用若干名 / 若干心もとない / 若干増加傾向
「弱冠」の方は、どちらも「天才」であったり「好成績」を収めたりしています。

「若干」ではその後につく言葉に関係しているようですね。

「採用」するのが「若干」。「心もとない」のが「若干」。「増加傾向」も「若干」。


「弱冠」とは後に詳しく述べますが、本来なら「20歳の男性」を指している言葉です。

ですが、現在では
「その年齢にしては成果を上げている」といった意味合いでも使われています。

  • 「弱冠17歳の天才クライマー」:「17歳にしては天才的なクライマーだ」
  • 「弱冠ながら好成績を収める」:「好成績を収めるほど経験が豊富ではないだろうに大したものだ」
「まだ17歳なのに」「まだ好成績を収めるには早いのにもかかわらず」などのように
「経験が浅くまだ未熟」であることが強調されています。


「若干」は「いくらか」「幾分」などと同じように用いられます。

ですが少し硬めの印象。

話し言葉よりも、文章中に登場する率の高い言葉です。

数量や程度を表わしていますが、はっきりと明示できるものではなく、かつ、あまり大きくないモノ・事柄に関して。

  • 「採用若干名」:「人数ははっきり決まってはいないけれど、それほど多くは採用しない」
  • 「若干心もとない」:「もの凄く心もとないわけではないが、多少心もとない」
  • 「若干増加傾向」:「大した増加はみられないが、増加傾向ではある」
のような感じでしょうか。


「弱冠」「若干」はまったく違う意味で使われているのですね。


でも読みが同じ……

「同音異義語」、ちょっとした悪意さえ感じてしまいますが、存在している言葉なので仕方がありません。

仕方ないので……

まずは「弱冠」「若干」それぞれについて、少し詳しく見ていってみましょう。

「弱冠」とは?

「弱冠」といえば「藤井聡太」棋士(勝手に断言)。

「弱冠」の代名詞になりつつある勢いです。


2017年現在、2002年生まれの藤井四段は15歳。


「15歳の棋士が62歳年上の棋士(加藤一二三 九段)に勝利!」

この場合、やはり注目されるのはその「若さ」です。

  • 「たった15歳なのに」勝った。
  • 「相手と比べまだまだ経験も浅いだろう15歳という年齢にもかかわらず」勝った。
となるわけです。

そこで使われるのがこちらの「弱冠」。


「弱冠15歳の藤井四段が、年の差62歳の加藤一二三 九段に勝利」

ですね。


「弱冠」とは「年が若いこと」の意味でも使われる言葉です。

そして「年が若い」ということは
「そのため経験も乏しい」。
この部分が強調されているのですね。


ですので「弱冠4歳の幼稚園児」などとは使いません。

4歳児はたいてい幼稚園児か保育園児。

どこにも「にもかかわらず幼稚園児ですごい要素」がないからですね。


と、ここまでが、現在での使われ方。

ほぼ市民権を得た使われ方なので
「年が若く、経験が乏しいにもかかわらず成果をあげている人」に用いてもいい気がするのですが、厳密にいうと、これは誤用に近いものとなるのです。


「弱冠」の本来の意味を見てみましょう。

※ 本来「弱冠」ってどう使われるもの?

「弱冠」はかつて古代中国で生まれた言葉。

「弱」とは「男子20歳」のことを指しています。

その「20歳の男子」の行う元服式で「冠」をかぶることから「男子20歳」の別称(異称)として「弱冠」の言葉が生まれた、とされています。


「弱冠二十歳(はたち)」とよく聞きますが、本来なら「弱冠」だけで「二十歳」です。

女性にも使えない「20歳の男子」を限定で指している言葉なのですね。


ただし、上記のことが記されている「礼記(ライキ)」には

「20歳前後を中心に29歳まで」を、「弱冠ということも可能」
と記載された注釈も加えられてもいるため「20歳限定」より対象となる年齢に幅があったのではないか、ともいわれています。


ここははっきりしないのですね。

実際辞書などの用例にも「弱冠18歳の~」や「17歳の~」といった表記は見られます。

また「弱冠39歳で~の○○(女性名)さん」などもあり。


ですがこれも最近の話。

2008年あたりに改訂されたもの以前には、上記のような「20歳以外」に使われる言葉としての記載はありませんでした。

いずれにしてもその年齢と成し遂げたことのギャップがいい意味である場合に使われる言葉ですが、


「弱冠39歳で~の○○(女性名)さん」

などは、もう本来の使われ方の、幅を持たせた方にすら当てはまりません。

しかも女性に使っています。


なのですが、あまりにも一般的に「弱冠○○歳( ← 20歳以外)」が使われすぎ、辞書などでもさすがにこの使い方を無視できなくなってきたのですね。

「本来の意味(原義)」を示した上で、実際に広く使われている新しい用法として「20歳前後、男女問わず」の方の意味も記載しているとのこと。


マスコミなどの場合でも「30歳以上」に使われることはほとんどありませんが、厳密に「何歳から何歳まで」といった基準はないのです。


これは今後どうなっていくのでしょうね。

現段階では「弱冠」といったら「男子20歳限定だ!」との考えを持った方も多くおられますが「弱冠15歳」などに違和感のない世代が増えれば、おのずと「弱冠」は新しい用法でのものが主流になっていきます。


言葉は生き物です。

今後の「弱冠」の行方がちょっと気になってきました。


ですが、本来の意味を知ることも大切。


「弱冠15歳で○○連勝の快挙!!」

などは確かに響きも字面もなんかかっこいい。

ですが、言い換えられるのであれば「弱冠」にこだわらず「~歳の若さで」でも、十分に通じます。

それが一番平和な結論なのかもしれません。


今まであまり使ってこなくてよかった……


ですが個人的には「若干15,16,17,18歳」などなどの用法が、今後も増えていくのでは? と思っています。

また、言葉の意味が時代と共に変わっていくことは(または意味が付加されることは)むしろ自然なことだと思ってしまうのですが……

「若干」は?

「弱冠」は若干面倒くさい言葉……

凄く面倒くさいわけではないけれど、少し面倒くさい。


……いや「若干」のレベルよりはかなり面倒くさかったような気がします。


さてさて「若干」です。



「はっきりはしないが、あまり多くはない(大きくはない、または強くはない)数量や程度」を表わす言葉。

先ほども書きました通り、「いくらか」「多少」「少しばかり」などといった意味合いですね。

こちらも由来を見てみましょう。

    ◎由来①
  • 「若」=「未定」 / 「干」=「個数(1個、2個の「個」)」
     →「若干」=「個数が未定」
  • ◎由来②
  • 「若」=「~のごとし」 / 「干」→「一」と「十」に分解
     →「若干」=「『一』のごとく『十」のごとし」
     → 1~10までだが、はっきり決まっていない数
由来……
まったくわかりにくいです……


「弱冠」の「弱」が「若い」を表わし、「若干」の「若」が「未定 / ごとし」……


漢字はもともと中国からのものなので日本語で考えるとわけがわからなくなりますが、そういうことになっているのですね。


「腐った豆」と書いて「とうふ」「豆が納まる」と書いて「なっとう」……

「納豆」「豆腐」に使われている漢字が、どう考えてもお互いに逆のような気がしてならないのと同じような感覚です。


とりあえず、ここら辺のモヤモヤ感はどうにもなりませんので措いておきます。


さて、上記の通りだとしますと「個数が未定」だけれど「1から多くても10まで」、となり、数量限定ということになってしまいます。


ですが先ほども書きました通り、数量では測れない「心もとない」などにも「若干」は使われていました。

また冒頭にあるような「『若干』は使わないこともないけど」のようなことを表わすのも「若干」なのですね。


「『若干』の言い回しは『若干使う』」。


つまり「程度」を表わす場合にも「若干」です。


「若干」も「弱冠」同様、実際には厳密に由来からくる本来の意味通りに使われているわけではないのです。


ですので「若干」とは上記の由来①②のように、

  • 「はっきりしないが、あまり多くない『数量』」についてを表わす言葉
そして由来からの意味とは少しズレますが「数量」だけではなく、

  • 「はっきりししないが、それほど大きくない『程度』」についても表わす言葉
となります。


英語の「some」のような感じですね。


「何かの」「いくつかの」「少しの」が「some」の原義。

そこから「おおよそ」「約」などの意味合いを持つ単語ですが、「若干」も同じように使われています。

「弱冠」と「若干」の違いのまとめ

英語で言ったら「young」的要素のある「弱冠」。

「some」の「若干」。


「若い」の文字が「young」要素のある方でない「若干」に入っていることで、混同されやすいのかもしれません。


ですがここはもう「この2つに関しては『逆』」と覚えてしまいましょう。

そしてセットで記憶してしまえば、この紛らわしい問題はクリアです。


ではここでダメ押しです。

もう一度おさらいも兼ねまして、2つの違いや使い分け等、まとめていってみましょう。

それぞれの辞書的な意味は?

    ◎弱冠
  • 男子20歳の称(異称)。または成年に達すること
  • 年の若いこと
  • ◎若干
  • それほど多くない、不定の数量・程度を表わす。いくらか、少し
  • (副詞的な使われ方として)多少、いささか

実際の使われ方は?

    ◎弱冠
  • 「20歳男子」を限定して指す
  • 年が若く、経験が乏しいのにもかかわらず成果をあげている人のことを指す(「弱冠17歳の~」のように)
  • →「20歳の男子」に限らず「20歳前後を中心とした男女(一般的には20代後半くらいまで)」に対して、上記のように「その年では難しいと思われる成果」をあげた人たちに対して使われています。

    ◎若干
  • はっきりした数量はわからないが、それほど多くないものに対して(「若干名募集」など)
  • 多少、いくらか、といったような程度に対して(「若干不安が残る」など)
  • →「数量」にかぎらず「程度」も

それぞれの由来は?

    ◎弱冠
  • 古代中国で「男子二十歳」を示す語として「弱」が使われており、二十歳の元服式で「冠」をかぶったことから「男子二十歳」の異称として「弱冠」の言葉が生まれる
  • ◎若干
      ①「若」=「未定」 / 「干」=「個数」
      → 「個数が未定のもの」の意味として
      ②「若」=「ごとし」 / 「干」→「一」と「十」に分ける
      → 「1から10までだが、はっきり決まっていない数(「一のごとく十のごとし」の意味で)」

言い換えたら何?

    ◎弱冠
  • 男子二十歳(本来の意味の場合)
  • ~歳の若さで / ~にもかかわらず  など
  • →「若いこと」「若く経験が乏しいのに」を強調しています(新しい用法の場合)

    ◎若干
  • いくらか / 多少 / 多少 / いささか / 少々  など 

終わりに……

「弱冠」「若干」、言い換えてみるとそれほど難しい言葉ではありませんね。

結構使っています(「いくらか / いささか」はあまり使いませんが)。


また、気持ちはわかるのですが「『若』冠」は間違いです。

「弱冠」を本来の意味以外で使うことは何とかギリギリ許されますが(辞書にも用法が載っていますし、ほとんど一般化されているため。でも厳密には誤用)「弱冠」と書くところ「若干」としてしまうのも完全にアウトです。


「どっちだっけ?」と迷ったら、
「漢字の意味が逆の方がそれぞれに使われてる」のように思い出せば大丈夫。


「若い」の意味のある方には「弱い」の「弱冠」。

「それほど強くない(弱い)程度(数量に当てはめるとヘンですが)」を表わすのが「若い」の文字での「若干」です。


理屈で覚えようとしても


「漢字の使われ方が日本語としてどうなの? という意味になってしまう……」

なため、何となくスッキリしませんが、もうこの2つに関しては「こう」なのです。

今では誰も「納豆」と「豆腐」の漢字に対してそれほど疑問を抱かず日常的に使っているのと同じです。


このような言葉は、疑問に思った時点で1つ1つ覚えてしまうのが一番。

そのうち「同音異義語博士」のようになっていく……はずです。


さてさて、いかがでしたでしょう。


「ちょっとモヤモヤする……でも、モヤモヤする2つの言葉なんだな、ってことはわかった」

などなど、意味、使い分け、違いについては、とりあえず多少はスッキリしていただけていましたらうれしいです!!

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